これまでの自由主義経済と称するものは、実は自由主義体制の中に共産主義を抱きかかえ、不自由極まりないものだった。2001年に中国がWTOに加盟し、自由経済ルールに適合すると約束した。15年には南シナ海の岩礁に軍事基地は造らないと約束した。さらに知的財産は盗まないと、首脳会談で約束した。このような裏切り行為が頻発すると、自由主義という本体が変質してくる。
ピーター・ナバロ米大統領補佐官は国家主導でハイテクを育成する中国の政策「製造2025」について既存の自由主義を破壊する行為だ。中国が自由主義に居続けるつもりなら「構造的な変化が必要だ」と断じている。ナバロ氏は米政権内きっての対中強硬派で、米中首脳会議にも同席していた。
ナバロ氏は技術移転の強要や知的財産の盗用、サイバー攻撃やスパイ活動、補助金による産業保護など中国が行っている53項目の不公正慣行を挙げ、ほぼ全てが「WTO違反だ」と断じている。ナバロ氏の意志に沿えば中国は共産主義体制ではなくなってしまいそうだが、トランプ氏もこの強烈な意志を共有している。米中両国が突っ張って譲らなければ、トランプ氏は軍事的衝突も辞さないほどの怒りようだ。情報流出を止める狙いからファーウェイなどを締め出し始めたが、米中対決の決め手は中国に先端技術が流れ込むのを断ち切れるかどうかだ。
これまでの中国は自由経済の良い所だけを存分に利用し、儲け放題儲けてその分を軍備拡張に注ぎ込んだ。17年間でGDPは9倍となり、世界の2位となった。この軍事力を背景にすれば、岩礁の所有権についての国際仲裁裁判所の結論を「紙屑だ」と断ずるほど増長できるわけだ。
しかしファーウェイ副会長の猛晩舟氏のカナダでの拘束はトランプ氏の逆襲を象徴している。同時期に中国のスパイと本命視されていた2人が米国で逮捕された。ハイテクの中国への流出を遮断する手始めだ。金融の世界も地方ごとにバブルの繰り返しだ。
もともと中国の株式ほど怪しいものはない。中国共産党は毎年数万人に党に属する公務員を汚職で逮捕していると発表している。株式の内容について、大衆は明確に知らされていない。中国株は資本主義市場で流通している株式と似て非なるものなのだ。取引の材料は“風評”だから、悪材料が出ればとめどなく下がる。資本主義市場を貫く精神は「正直」だが、もともと中国社会に正直など存在しない。ナバロ氏が求める構造改革に行きつくところは正直とか良心というものだが、これは無理だ。とすれば米中が同格で付き合うためには厳格なる規則と違反した場合の厳しい罰則だけだ。米国は中国製品に対する制裁関税の引き上げを19年3月1日まで猶予した。米国が中国の改革案で合意できなければ2,000億ドル(約22兆円)分の関税は10%から25%に引き上がる。
(平成30年12月26日付静岡新聞『論壇』より転載)