外交はかつてどの国と組むのが最善、最強になるかを日々研究するものだった。しかし現代のように「戦力」が統計や予算の公表によって剥き出しになってくると、戦う前から勝負が判るようになる。
1967年に第3次中東戦争が勃発した時、スエズ運河が使えなくなると見た商社は先買いで、船の通行権利を買い占めたため、貨物料金が暴騰した。その中で貨物料金の投機に全く手を出さなかったのは伊藤忠商事だけだった。当時専務だった瀬島龍三氏が「戦争は1週間で終わる」と予言して、実際にその通りになった。瀬島氏は満州駐屯時にソ連に敗北し、シベリアに11年も抑留されて帰国した元大本営参謀である。瀬島氏にその“読み”の秘訣を聞きに行ったことがあるが、イスラエルと周辺4ヵ国の軍事力(戦車、飛行機、大砲など)を羅列して「これを比べると飛行機は何日で終わり、戦車も何日と正確に出てくる」という。さすが参謀だと感嘆したものだ。
日独伊、三国同盟も突如として現れた。軍事力は大量で多品種にわたる。こちらの方は事前に計算できなかったのだろう。計算の立たない同盟を組んで“見当違い”の戦争を仕掛けた。バカもいい所だ。軍事に懲りたせいか「軍事学科」あるいは「軍事史学科」を開設している大学が一校もないのは酷い。
米中ただならぬ雰囲気だが、2016年の時点で米国の軍事費は60兆円。これに対して中国は18兆円。米国が圧倒しているように見えるが、諸シンクタンクの推計では中国の実際の軍事費はその2倍から3倍で、年に36兆円から54兆円に上ると見られている。特にミサイル技術に向上が凄まじく、米国もウッカリ空母やイージス艦を尖閣列島のそばに派遣するのは危ない。一艘沈められれば猛烈な撃ち合いになる可能性がある。
そういう情勢なら中国との友好も保っておくべきだという意見が、自民党の中からも飛び出てくる可能性がある。つい最近まで外交において日米中の「正三角形論」が存在した。米中が衝突寸前の今こそ、補償として中国とも友好関係を築いておくべきだという政治家、評論家が多数存在するのに驚く。
日米を結び付けているのは自由と民主主義、基本的人権の尊重といった精神的価値観である。これを守ることに賛同して、日米豪印に加えて仏、英も加わり「インド太平洋政策」を掲げている。全部が軍事同盟ではないが、中国が噴き出せば寄ってたかって押さえ込まれる可能性がある。
オバマ大統領の時代に中国は西側の戦略的技術や各種の武器を盗み放題に盗んだ。今、米国は中国のスパイ狩りに懸命になっており、中国製ITや5Gを国防のために排除しようとしている。中国の金ずるとなっている貿易のやり方も変えようとしている。トランプ氏は「貿易を2つに分けるだけ」と述べているが、体制もやり方も違う「社会主義市場」と従来の「自由主義市場」を分ける発想は良い。
(平成31年1月9日付静岡新聞『論壇』より転載)