「自由主義国家から盗み取った金と技術で世界最強の軍事国家を目指す中国」
―自由市場の対中経済政策の大誤算―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 中国に対する主要国の認識はほぼ一致してきた。2001年に中国をWTO(世界貿易機関)に加入させた時には、この国が独断専行するのではないかとの見方が半分。いや20年も自由主義国と付き合い、貿易の自由を味わえば中国自体が自由主義に変身するはずとの楽観論が半分。ところが20年経ってみると、自由主義体制の規律は守らず、やりたいことは全てやる我儘放題の道を走ってきた。
 そもそもWTOは自由主義経済を前提に成立している。その中で国営企業が国際的需要を無視して鉄やアルミを過剰に生産して、市場に放り出したらどうなるか。需要と供給のバランスが崩れて鉄やアルミの価値が暴落するのは当然だ。自由主義国は社会主義の市場破壊にどう対応するか。日本が考え出した案は自由経済の掟で商売すると誓った12ヵ国でTPPという市場を作る。これに行儀のよい国を次々に加えていくという考え方である。
 トランプ大統領は就任早々に、TPPからの脱退を表明した。貿易条件は個別に2国間同士で作ると宣言したのである。米国のような強い軍事力を持った国なら、このやり方で通ずるだろう。トランプ氏が頭に来たのは、鉄やアルミといった単純な物品どころではなく中国がリードしているのは世界最先端のIC分野だったことだ。その最先端技術はスパイを使って盗み放題に盗み、さらに高度の技術品を作って儲ける。米国は目下、高関税を目前に吊るしておいて、過去の盗品の価格を払えと脅しているところである。盗まれたのは技術や商品だけでなく高度の軍事技術や機密も含まれる。中国はあと一歩で、軍事面でも米国を揺るがす強国になるところだった。こうなれば自由主義国は中国からしごきにしごかれるところだった。
 宗教色を薄めるといってイスラム教徒を監獄に入れ、過激な思想を改めるという。聖職者以外にこのようなことができるのか。子供たちに中国語教育を施して、親や祖父母と会話ができなくなる。文化の断絶を図る。中国は新疆ウイグル自治区(東トルキスタン)の人口2300万人のうち、ウイグル人1130万人を区別して、このうち強制収容所に110万人を収監し、他に20万人が再教育されているという。
 経済体制も自由主義体制を向いていない。民営も官営もあらゆる企業が、共産党の支部を置いている。規律を正すためにこういう組織になっているのかと思ったら、共産党が資金を扱うのに便利というだけの話だ。15年の汚職キャンペーンによって周永康・元共産党政治局常務委員が無期懲役の判決を下された。その不正蓄財の額は約1兆5千億円相当。大小さまざまの企業から共産党がくすねるのだろうが、我々の自由市場でこれだけくすねられたら、倒産必至だ。中国は領土的発展を狙い、自由市場から金を吸収し、軍事的膨張を遂げることが、国家目的の国だ。
(平成31年1月16日付静岡新聞『論壇』より転載)