4月13日に行われた韓国国会の総選挙は、与党の敗北に終わった。
朴槿恵大統領の与党セヌリ党は、500議席中122議席(選挙前は146議席)しか取れず、123議席を取った革新系最大野党「共に民主党」(選挙前は102議席)に第1党の座を渡した。第3極の「国民の党」は38議席(選挙前は20議席)と躍進した。与党から公認を得られなかった親日派などの与党議員は無所属で戦ったが、そのうち当選した何人かがセヌリ党に戻ると予想されているので、同党は何とか第1党の地位を獲得するであろう。しかし、16年ぶりの少数与党となり、これまでも難しかった国会運営はさらに難しくなるであろう。
敗因とされる中で、朴大統領の強権的政治手法については大統領次第で変えることはできる。しかし、世界経済特に中国経済の影響を大きく受けた経済の停滞や社会構造に根差す格差の拡大は、任期中の改善は難しいであろう。そうなれば、次の大統領選挙でも、セヌリ党は敗北するかもしれない。
日韓関係にどう影響するか?
韓国は大統領制でありその権限は強力であるから、政府の外交路線は、その気になれば継続できる。しかし、法案の国会通過が今まで以上に困難になるほか、外交政策一般について左翼的、北朝鮮について融和的な「共に民主党」からこれまで以上のハラスメントを受けるであろう。
我が国との関係については、まずは日韓慰安婦合意の行方が懸念される。
総選挙後、韓国外務省の高官は、この合意は引き続き尊重すると述べたが、強硬派の元慰安婦や挺身隊問題協議会、左派勢力は勢いづき、この合意を破棄しようとするであろう。しかし、この合意は、両国政府がこの合意により「慰安婦問題は最終的かつ不可逆的」に解決したと公的に発表したものである。合意の中には、「両国政府は国連などの国際社会で慰安婦問題での非難・批判は控える」という約束も含まれる。(この問題については、本欄掲載の2015年12月29日付拙論ご参照) さはさりながら、「共に民主党」は、反日傾向の強い韓国にあってより反日的より親北的傾向の強い野党である。この合意が政府間の文書にはなっていないことなどを理由に、合意の破棄ないし不履行の態度をとって、朴政権を揺さぶるであろう。「頑固」で知られた朴大統領であるから、自らが賛同した合意を「頑固に」順守してもらいたい。野党も、これは米国を含めた国際社会も歓迎した合意であることを想起すべきであろう。
我が国としては、この合意を尊重するとの毅然とした態度を貫き、その姿勢を韓国に対しても国際社会に対しても発信し続ける必要がある。
左派的な野党の躍進によって最も影響されそうなのが、韓国の北朝鮮政策である。左派勢力は,朴政権による開城工業団地からの韓国人引き上げにも反対した経緯がある。韓国はより北に融和的な路線に変わるのではないかと危惧される。もっとも、金正恩の北朝鮮は、かつて金大中や廬武鉉など左派の大統領が対応した北朝鮮よりはるかに反韓度が強く、危険度の高い政権である。左派といえども、対応はそう簡単ではない。しかし、親中国指導者の粛清や累次の核実験・ミサイル開発などにより、国際社会のみならず中国からも見捨てられた金正恩政権である。左派勢力の国政での影響力増大を、自国が窮地から脱するために利用しようとするであろう。
ここ数か月来、北朝鮮対策を背景に緊密になった米国との関係にも、影響するだろう。当分の間、朴大統領は韓米同盟重視路線を継続するだろうが、「高高度ミサイル防衛システム(THAAD)」の配備はより厳しくなるかもしれない。THAADは北朝鮮対策として構想されたが、中・露の奥地のミサイル基地などもカバーできるため、中露が配備に反対している。特に中国は、なりふり構わず対韓圧力をかけている。朴政権は米国との板挟みにあっている、野党勢力は米国より中国に傾斜した対応を取るのではないか。朴大統領がその配備をレガシーとするぐらいの覚悟で当たらない限り、配備は難しくなるだろう。
最近、良好になった日米韓の三国関係にも影響は及ぶであろう。中国は三国間にくさびを打ち込むチャンス到来と考えるかもしれない。日米は、朴政権を好むと好まざるとを問わず、弱体化したこの政権を支える必要があるであろう。
(了)