「宗教、言語で“中国化”を進める中国」
―軍事強化する中国の魂胆は日本人の“中国化”か―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 米中貿易協議では、米国はこれまでのボロ負けを取り返す場面に立ったようだ。これまで中国は、管理経済を続けながら自由市場で自分が勝てる取引をするのだから、稼ぎ放題だ。しかも高級製品の知的財産を殆ど窃盗するのだから莫大な稼ぎだ。
 台湾の半導体企業の機密情報の9割に中国企業が絡んでいると言われる。世界トップの台湾積体電路製造(TSMC)でエンジニア2人が製造資料を盗み出し起訴された。中国企業が5倍の給与を払う約束だった。この種の犯罪はこの5年間で計75件に達した。台湾は中国人の移住が楽だし、就職も有利だ。先端技術での知的財産窃盗は台湾の国際競争力をも削ぎ取る。台湾経済に深刻な打撃だ。台湾を敵視している習近平氏にとっては打撃と儲けで一石二鳥だ。
 米国はあらゆる機械の主力部品に使われるファーウェイの排除の動きを強めている。次世代通信機器メーカー「5G」の段階では、断固中国産を排除しようとしている。
 中国は「一帯一路」を餌に関係国をファーウェイ陣内に留めようとしている。見返りを当てに意外に中国寄りらしい。
 最近驚いたのは、イスラム教やキリスト教を柔らかく“中国化”するというのだ。また、ウイグル族がウイグル語を話さないように100万人単位で収容施設で中国語教育をしている。中国は「2049年」が建国100年だそうだが、習近平氏はそれを目指して、世界一の軍事大国を狙っている。各地方に漢語を使うように強要している。もともと中国は互いに在来語を使っても中国人だ。最近は漢語に全国統一しようとしているらしい。あらゆる種族に漢人を送り込んで“人種改造”しているようだ。
 電話の会話は無線でも盗聴されるという。政治に絡む「天安門」とか「6月4日」、国共内戦の「5月1日」、文化大革命の「66年」といった言葉を使うとそれ以後、盗聴の対象にされるという。
 先日は有名な歌手のコンサートで観客の中から4~5人の泥棒が捕まった。舞台の側から観客席を映すと手配された怪しい人物が即チェックされる仕掛けだ。
 泥棒が罰せられないと、発明しようとの努力が薄くなる。長く続くと企業世界が活力を失う。台湾が最も恐れるのはおカネの損失ではなくて、発明力の衰えだ。世界中こういうふやけた社会にしたのはオバマ前米大統領で、このやり方があと8年続いたら、世界は中国のものになったに違いない。
 人間改造のために、漢人を送り込む。ウイグル語をやめさせるために、収容所で中国語生活を強要する。これらは共産党社会の外では非人道的措置そのもので、こういう政治に人々は何十年も耐えるようにはできていない。ソ連がトップだった時代、東欧では各国とも自国語だけは使えた。中国の軍備強化は日本人に中国語を使わせる魂胆なのか。
(平成31年2月27日付静岡新聞『論壇』より転載)