カルロス・ゴーン日産前会長は、日産資金を自分の投機の損失に埋めたとか、役員報酬を有価証券報告書に過少に申告したなどの容疑で裁判を待っている。投機の損失に使ったとか役員報酬の過少申告などはれっきとした犯罪であるから、日産自体も自ら「ガバナンス改革特別委員会」を作って検証した。国民は報酬を年10億円と認識していたが、あと10億円を退職した後に払うとか、法外な退職金の“裏約束”もあったらしい。
要するに表面上は少なく、裏では多く貰うという小賢しい細工をなぜしなければならないか。裏で100億円も貯め、他人のお金で別荘の維持費も出していたとしたら、根性が悪い。
日本でも大金持ちはそれなりに敬意を払われるが、筋のわからぬ大金が混ざっていると知れた途端、評価は暴落する。日本の政界で言えばかつての田中角栄氏だ。ゴーン氏は自分に重みをつけるためか、際限もなく金を自らの金庫に貯め込んだが、反面、田中氏は「金に困った人」には惜しみなく与えた。
カネにまつわる人間の生き方は難しい。最近ソニーの平井一夫会長が退任すると発表された。平井氏は「ソニーという会社を一層輝かせていく体制が整ったと確信し、35年間過ごしたソニーグループから卒業することに決めた」とのコメントを出した。平井氏が最高経営責任者(CEO)に就いたのは極度の経営不振時だった2012年。それが18年に最終利益が過去最高を記録した時にCEOを退任。報酬は年27億円で国内上場企業のトップだった。年齢わずか58歳。
民間会社の給与がいくらだろうと、問題がないと思うのだが、日本では官僚から民間会社に天下る“天下り”問題が必ずついて回るから、無関心という訳にはいかない。
昨年、民間出身の取締役9人全員が辞任した官民ファンドの「産業革新投資機構(JIC)」を見てもらいたい。これは官民の知恵を集めて、新規事業を開始する役割。優秀な民間人を役員として迎えれば年俸1億円でも出しすぎではない。このJICが純粋な民間会社でないから所管の経産省は自省の高官を一人入れた。これを天下りというのだが、同格同級の秀才を9人集めれば一人当たり1億円、総額9億円になるだろう。しかし一般の天下りの相場は、次官と同程度。今、次官の年俸が2,300万円だとすれば、天下り相場は2,300万円前後だ。それが1億円も出したら、天下りの賃金序列は総崩れになる。
かといって民間から1億円ずつの年俸で9人集め、このうち官僚出身一人だけ3,000万円に値切る訳にはいかない。そこで機構の名を変え役員人事も全部入れ替えた。
アメリカでは官僚の天下りを原則禁じており、元の職場への影響力の行使については厳罰が課される仕組みになっている。かつて権力を持っていた人が深い知識や人脈を操れば、公平な競争ではなくなる。
(平成31年4月3日付静岡新聞『論壇』より転載)