「一帯一路」は中国共産党発案の詐欺そのものではないか。スリランカのハンバントタ港建設は借金も巨大、工事費も巨大を承知で着工された。何しろ金主の中国が「金ならいくらでも貸してやる」というのだから、施主は大胆になる。挙句に出来上がった港は元金も金利も払えなくて、99年間中国の所有になるという。貸付詐欺そっくりの手口だ。
マレーシアは国を縦断する鉄道建設が政界を真二つに分けた。既に着工していたのだが、15年前に引退していたマハティール元首相が断固反対を叫んで立候補し、返り咲きを果たした。マハティール氏は「違約金を払ってでも中止」を掲げて、結局、中国側が1兆8千億円を3分の1ほど切り下げて工事続行となった。
前者のハンバントタ港のケースはあからさまな共産党支配のケース。マレーシアのケースは資本主義的商談を装うケース。日本の安倍首相はG7会議のあと、会議の総意として「一帯一路に協力しましょう」などと会議を中締めした。
2001年、中国をWTO(世界貿易機関)に招き入れたのは、それまで断固反対していた米国が賛成に回ったからだ。その時の米国のセリフは「みんなで仲良く交わっていれば、世界の国は同質になるはず。そう期待しましょう」などと言ったものだった。
イタリアのチェンティナイオ農業相も「一帯一路は危険でない」と強調している。しかし商売のやり方だけを見て、案配のいい共産主義だと評価するのは大間違いだ。マハティール氏のケースは「もっと重要な利益があるから譲った」に過ぎない。
毎年春の全人代(全国人民代表大会)の際に、共産党本部が汚職の逮捕者数を発表している。習近平政権が発足してから毎年約25万人である。日本だったら内閣は一発で潰れているところだが、党は恥じらいもなく逮捕者数を発表している。これは党内公開の精神を貫いて脅しているのだろう。それでも理解できないのは、どうして逮捕者を150万人も党内に抱えているのか。
中国共産党は支配を完全にするために、あらゆる官僚組織、企業体に幹部クラスを据えている。財務部とか経理会計部門に座っていれば大金をいじる権限もあるのだろう。それにしても横領した額が何百、何千億円という巨額に驚く。“人事”といって、官僚機構や企業体に息子や娘という名の泥棒をまんべんなく送っているのだろう。
中国人の主たるモラルは儒教だが、日本の儒教と決定的に違うのは「公」の観念がないことだ。親兄弟を絶対的に優先し、公金などは着服して親兄弟に貢ぐのは当たり前だ。習近平氏が党の純化などと言い始めた頃は“大物”ばかりが狙われた。驚いたのは周永康・元共産党政治局常務委員に連なる人物が公金着服で捕まったが、その額が何と1兆5千億円。マレーシアが値切った工事ほど大きい。
(令和元年5月22日付静岡新聞『論壇』より転載)