「世界で最も古い国日本」
―支配する民族と国民が入れ替わっては、連綿と続いている国家とは言えない―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 現存する最も古い国家はどこか。中国人は迷わず「オレの所は4千年だ」と答えるはずだが、文化人類学者に言わせると日本が「2千年」で最も古い国なのだそうだ。
 中国が4千年といった後に、韓国人が5千年と言ったことがあるが、この5千年は全くの駄法螺話。中国の古代には夏、殷、周という紀元前の2千年間ほどの神話の歴史があるが、統一された国家になったのは紀元前221年の秦の始皇帝の時代から。秦の次は漢、唐、元、明、清と連綿と続いているではないかという人はいるが、支配する民族と国民が入れ替わった国を続いたとは言わない。
 チグリス・ユーフラテス文明はかつて繁栄したが、没して他の国がその地域を占めている。その国はチグリス文明を相続したとは言えない。実は中国も同じで秦が支配した後漢、魏晋南北朝、隋、唐、五代十国、宋、元明、清と様々な民族が広大な国土にやってきて居ついた。日本のように公式に代替わりが行われ、文字も伝統も後世に引き継がれたわけではない。日本語は漢字を基礎にひらがな、カタカナを作り出し、時制まで作った。これは同じ民族が知恵を加えて進化させたものだが、中国語に送り仮名や時制がないのは、歴代同じ民族が、同じ言語を使わないからだ。文字が大衆に染み通っていないのだ。
 北京政府は「全国民で仲良くしよう」というつもりで「5族共和」の掛け声をかけている。5族とは漢族、満州族、蒙古族、回(ウイグル)族、チベット族で、漢族、満州族、蒙古族は一度中国大陸を支配した。漢字は漢族が残した遺産だが、これを2千年かかっても5族の共有の財産にできなかった。
 チグリス・ユーフラテス文明の後に居ついた民族は全く別の言語を使うから後継者ではない。中国は「中国文明」と名付けた土地の上に異民族が次々に居座った。貴族の遊びを調べると、異民族が異文化を携えて入植し若干異なる習慣を振りまいたことが分かる。
 異民族は住み着くにあたって、土地の権利金を払ったり名儀書き換えなどをしたわけがない。土地が存在すれば暴力で自分のものとなる「一帯一路」などという政策は商売に長けた中国人の思い付きだ。幾らずつ出資するのか、完成時の所有権はどうなるのか。商売のやり方はどう見ても中国的、共産党的で、いい加減である。尖閣諸島など歴史的に見て、どう見ても日本のものだが、中国人はその向こうに行きたいから、どうしても尖閣諸島が欲しい。反対する国は敵だ。こういう先鋭的民族は西側世界には理解されない。
 国際政治学者のサミエル・ハンチントン教授は1990年代に、日本を中華文明に加えて7極としていた文明論は間違いで、日本は中華文明とは明確に異なる。8極目の一国一文明だとした。価値観がまるで違う。中国人が人のものは自分のものと本気で考えていることを理解しないと、対中政策を間違う。
(令和元年6月5日付静岡新聞『論壇』より転載)