「G20閉幕 米国の対中政策変わらず」
―孔子学院撤去、米国内に中国排除の思想か―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 20ヵ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)は6月29日閉幕した。各国間でほつれた問題を処理したようだが、この会議の特徴を一言で述べれば「米中貿易戦争はまだ片付かない」といったところだ。関税第4弾は見送られ、ファーウェイへの部品販売は「安全保障関係にかかわる部品以外は売っても良い」とのトランプ氏の許可が出た。
 米国の出方が、ゆるくなったように見えるが、米国の目標は全く変わっていない。ただとんがったやり方は止めようということだ。
 米国の認識は、中国の商売のやり方が汚すぎる、知的財産は盗む、補助金を使って企業を助けるなどは許されないというものだ。中国の急成長はWTOのルールを無視するからこそ可能になっている。6%台の成長スピードは違法だらけ、傍若無人のやり方でこそ達成できる。おかげで米国は莫大な貿易赤字国になったが、そのうちの半分近くは中国に稼がれている。中国はその稼いだ金で軍備を増強し、建国100年目の2049年には世界のトップになる。その実現のために習近平氏の任期を無期限とした。
 それまでの西側諸国は「中国と仲良くやれば、中国は変わってくる」と思い込んでいた。WTOの規則に照らせば狂った点が多かったが「仲良し方式を続ければ中国は自由主義体制に移行する」と思い込んだ。ところが、中国だけを有利な地位に導いてしまった。
 米ソの冷戦時代は米企業にスパイを潜入させることは極めて困難だった。ところが冷戦終焉と共にスパイへの警戒心が薄れた。とくに米国と中国は軍事力の差が激しかったし、14億人を抱える中国を将来の市場として眺めた。日本の親中派は商売人ばかりだから、中国を軍事的観点から分析する議員、経済人はゼロだった。
 トランプ氏が全世界を巻き込む形で中国に貿易戦争を仕掛けたことが、各国の中国観を一変させた。日本を始め、軍事負担が少ないと訴えているのも、米中のバランスが崩れる危険を訴えたいからだ。
 米国は先端技術のエンジニア職を巡り、国内半導体企業による中国人採用の承認ベースを著しく遅らせている。業界に必要不可欠な人材が不足気味だという。こうした動きは昨年から始まった。ファーウェイが代表格で名が知れ渡ったが、インテルやファルコム、グローバルファウンドリーズなどの企業では数百人規模で技術者が不足しているという。また各名門大学、研究所の中枢から中国人を排除する動きも強まっている。重要なテクノロジーに関する職務に就くには許可が必要だ。最近ではこういう人物が本国に技術を持ち帰り起訴される事件が起こっている。
 孔子学院はそれを通じて共産主義、中国式発想を広める道具だ。全米に120ヵ所あるといわれるが、昨年撤去の命が出たという。米国内に中国排除の思想が生まれたとすれば、関税交渉は思想戦の様相も加わってきた。
(令和元年7月3日付静岡新聞より転載)