最近「日本が中国に対して優しく振る舞ったほうがいい」という人が特に外交官出身者の間で増えている。中国に対して厳しかった安倍首相の態度が柔らかくなったせいか。「優しくせよ」という根拠として、トランプ大統領の「日本の軍事予算は足りない」「日米安保条約は公平でない」といった言い分をあげる人が多い。
トランプ氏の日本叩きを見て、「日本は孤立するかも知れない」と恐れ、「孤立した時のために中国と組む余地を残しておいたほうが良い」と考えるようだ。米国も中国も同質に扱い、力関係だけで見ると「どの国と組んでも良い」との発想になる。まるで帝国主義の時代の自国の利益を中心とした同盟国の発想だ。
現在は自由主義、人権、平等、市場経済など共通の価値を求める諸国が連合して権益を守る姿に集約されてきた。トランプ大統領と中国が揉めているのは、自由、平等、市場経済という価値観が異なっているからだろう。日本は5世紀の頃から中国と接触し始めたようだ。文字をはじめ中国文明を取り入れ、それを日本風に発展させてきた。中国側は「子分になれ」としつこく迫る。7世紀になって聖徳太子が隋の煬帝に宛てて「外交は対等である」旨の親書を持たせた。煬帝が烈火のごとく怒ったという。
15世紀に足利義満が朝貢の礼をとって、明と貿易したため、後世、国賊といわれた。
19世紀西欧の植民地主義が東・南アジアを覆った頃、中国では孫文、日本では頭山満が大アジア主義で対抗せよと唱えた。しかし福沢諭吉が「朝鮮、支那と合同して対峙すれば、日本もあの程度の国かと蔑まれる」と主張。シナ大陸と離れてヨーロッパに学ぼうと「脱亜入欧」を唱えた。当時の日本の文明水準が大陸諸国よりも諸外国に高く評価されたのは、福沢の脱亜入欧政策に預かっている。
トランプ氏の中国叩きに対して、米国民主党系の政府高官や中国研究者ら100人が連名で公開書簡を4日付のワシントンポスト紙に掲載し「中国は米国の敵ではない」と宣伝した。この文書は日本でも高名なエズラ・ボーゲル教授ら5人の専門家が起草したという。
ブッシュ大統領(息子)は「中国をWTOに入れれば、他の自由主義諸国の仲間になる」と判断して2001年、中国をWTOに加盟させた。それから何が起こったか。知的財産権を全く無視されたばかりか、中国に立地した企業に企業秘密の開示を求めたり、大学、研究所に多数のスパイを送り込んだりした。このため、トランプ氏が急スピードで失地挽回を図っているところだ。W・ポストのジョン・ポンフレット元中国特派員はトランプ氏を支持し「これらの中国ウォッチャーは、過去に一度も成功しなかった対中融和に回帰すべきではない」と警告している。日本が中国を頼ることは永遠にないと固く自覚すべきだ。
(令和元年7月17日付静岡新聞『論壇』より転載)