第25回参議院選挙が21日行われた。各党の獲得議席数に突出した変化はなかったが、今後の政治情勢の行方を占う兆候が出たように思う。
驚いたのは立憲民主党の枝野幸男代表の政治スタンスである。憲法改正について枝野氏は、先に安倍内閣で成立した一連の平和安全法制の根幹は「集団的自衛権を結ぶ権利はあるが行使はできない」との法解釈の変更を閣議決定したことである。この結果、様々の不可能が可能になった。集団的自衛権を結ぶ「権利はあるが行使はできない」という解釈に一国が何十年も縛られてきたこと自体、間違っていたのである。歴代法制局長官はいってみれば法匪である。世界のどこに「権利」はあるが「行使」できない法律や条令が存在するのか。
もしいま平和安全法制が存在しなかったら、日本近辺の情勢はどうなっていたか。民主党政権の時代は漁船に体当たりされ、あげく捕まえた船長を異例の不起訴で北京に送り返したのである。相手はならず者だ。木刀で叩きのめされて当然だろう。事実、中国は2049年を目指して、世界一の軍事力を持とうとしている最中なのである。トランプ大統領が中国式でたらめを叩きのめさなければ、中国の軍事志向は着々と進行していたろう。
安倍首相はトランプ登場の前に平和安全法を制定していた。トランプ氏は今でも「軍事費の支出が不公平だ」と言っている。まじめに受け取らなければならない。非武装だとか、軍事費は出さないと言っている手合いは国際情勢を一人で操れるとでも思っているのか。脅された時どうするのか。
中国が軍事強国を目指しているのは確かだが、誰かに圧迫されて準備しているのとは違う。独断で東・南アジア太平洋に軍事基地を作っているほか、一帯一路と称してほぼ全世界に軍港、飛行場、鉄道を敷設しつつある。
枝野氏は共産党を敵視する革マル派から支持されている。一方、国民民主党の玉木雄一郎代表は左翼ながら共産党とは組みたくない。今回の参院選では一人区で野党共闘が成功したが、どの党も永遠の野党を目指しているわけではない。野党共闘ができたのは連合が共産党の力を背景に各候補者をまとめたからだ。しかし共産党の組合票を当てにする限り、この複雑怪奇なからみ合いは解けることはあるまい。万年野党ということだ。
政界改革の兆候は維新が関西のみならず、東京、神奈川で各1人が選出され、全国政党への足場を築いたことである。松井一郎代表は大阪府と大阪市を一体とする「大阪都」構想によって、6兆円を生み出し、その資金で教育の無償化を実現できるという。大阪府の43市町村の職員給与は年400万円以上で、他の市町村と比べて突出している。公務員給与を切れないのは後ろに連合がいるからだ。同党は憲法改正にも積極的だ。普通の良識ある政党が誕生したということだろう。
(令和元年7月24日付静岡新聞『論壇』より転載)