天安門事件30年に思う

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 1989年6月3日深夜から4日未明にかけて、民主化を求めて北京の天安門前広場に集まった10万人とも言われる学生、市民に対して、中国共産党が軍隊を出動させて無差別に発砲するという暴虐行為を行なった。いわゆる天安門事件である。それから30年になる。では現在の中国はどうなのか。
 5月29日付産経新聞に、当時、学生のリーダーの一人として民主化運動を主導し、現在は米国に亡命している王丹氏のインタビューが掲載されている。王氏は、「中国の人権状況は、天安門事件前よりはるかに悪化している。当時、私たちはある程度の言論の自由があったが、今は完全な監視社会になった」と厳しく批判している。
 更に、「独裁政権を維持するのに高いコストがかかる。だからいつか必ず崩壊する。私は・・・様々な帝国の崩壊過程を研究した。国内の不満を外に向けさせるために対外膨張し、それが財政破綻を引き起こして崩壊のきっかけになることが多い。・・・一帯一路という巨大プロジェクトはまさに対外拡張で中国崩壊の兆しといってもいい」と語り、現在の習近平政権のやり方こそが、独裁政権の崩壊を呼び込むものとなっていると断言している。
 この指摘は、我々の目からすれば、特段、驚くような指摘ではないのかもしれない。一党独裁体制がいつまでも続くような国の在り方は、どう考えても不健全そのものであり、一刻も早い崩壊を願う人々は世界に数多(あまた)いるはずだ。
 ところが、この一党独裁体制を正面から批判しない政党が日本には存在している。日本共産党である。同党の社会主義国家についての評価は、実は目まぐるしく変転してきた。
 今日の日本共産党の路線を確立した1961年の党綱領では、「ソ連を先頭とする社会主義陣営…が人類進歩のためにおこなっている闘争」などと最大限に評価していた。
 だがソ連での過酷な強制労働や農業集団化などの様々な問題が明らかになると、ソ連や東欧の社会主義国は、「まだ生成期にある」と言い出した。“色々と問題はあるが、これから良くなっていく。その過渡期なのだ”という言い訳である。
 ところが91年にソ連が崩壊するとまたまた社会主義国への評価を変更した。ソ連や東欧諸国は、「過渡期どころか、社会主義社会には到達し得ないまま、その解体を迎えた」というのだ。とうとう社会主義国は存在しなかったことにしてしまったのだ。
 だが共産党が、後付けで既存の社会主義国への非難を幾ら行なったとしても、それは最も大事なことを欠落させた批判でしかなかった。なぜ天安門事件が起こったのか、なぜソ連でも、東欧でも自由や人権が奪われ、多くの虐殺が行なわれたのか。難しい理由など何もない。共産党一党独裁の体制だったからだ。これこそが諸悪の根源だったのだ。だが共産党は、ここへの厳しい指摘をしていないのだ。これでは、やはり「同じ穴の狢(むじな)」と見られても仕方がないだろう。