共産党と小沢の焦りが見える

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 4月21日、投票で衆院大阪12区の補欠選挙が行なわれる。自民党の北川知克元環境副大臣が死去したためだ。
 この選挙がちょっとした話題になっている。それは共産党の宮本岳志衆院議員(比例近畿ブロック)が議員辞職し、無所属で立候補するからだ。こんなことは、これまでの共産党の歴史にはない。
 宮本君というのは、私の3年後に大阪選挙区で参院議員に当選し、その後落選、衆院の比例に移り何度か当選してきた人だ。参院議員当時は、同じ委員会に所属していたので少しは知っている。質問戦はお世辞にも上手ではなく、そのことを率直に指摘したこともある。私の前では、借りてきた猫のようにしていた。
 私が議員を辞めた後、元秘書の篠原常一郞君と衆院議員会館の喫茶室でコーヒーを飲んでいると同君が入って来たのだが、私の顔を見ると慌てて持っていた新聞を広げて顔を隠していた。身体は大きいが、気の小さな人物である。
 その彼が議員辞職をして、大阪12区から立候補するというのだ。しかも、記者会見での発言によれば、「『自ら退路を断ってでも、市民と野党の共闘の実現に挑むべきではないのか』という思いがふつふつと沸き起こっていたとき、穀田恵二選対委員長に思いを問われ、立候補の決意をお伝えいたしました」と言うのだ。
 一見格好良く見えるが、日本語になっていない。穀田氏は人の心を読めるような人ではない。ところが宮本氏の「ふつふつ」とした思いを鋭く察して、「思いを聞かれた」と言うのだ。嘘八百が見え過ぎだろう。
 不自然な発言は更に続く。「大阪12区の選挙は、沖縄3区と並んで『市民と野党の共闘で〔安倍政治さよなら〕の狼煙をあげる』という野党共闘の命運がかかった選挙です」。どうして大阪12区がそういう選挙区なのか全く意味不明である。沖縄3区は、玉城デニー現沖縄県知事が選出されていた選挙区である。同氏が知事になったための補選だ。大阪12区とは事情が全く違う。
 私がこういう話を聞いたなら、「君、気は確かか?簡単に野党の命運を賭けるなよ」と言っただろう。
 ところが志位和夫委員長は違う。「宮本議員ご本人から、『衆院議員の職を辞して12区から挑戦したい』との申し出がなされた。党中央として、宮本さんの勇気ある決断を正面から受け止め、候補者に擁立することにした」と言うのだ。
 実に分りやすい三文芝居だ。この背後には、やはり仕掛け人がいた。小沢一郎氏である。沖縄3区は、小沢氏が推す玉城知事の後継が立候補する。野党共闘の空気を醸成するためには、大阪12区もということなのだ。宮本君も自認しているように、無所属立候補というのは、党の戦術である。共産党議員が勝手に無所属立候補することなどあり得ない。
 要は野党共闘に熱心な共産党と小沢一郎氏が打った追い詰められた最後の一手なのである。だが退路を断った宮本君は落選すれば政界引退ということになる。