「前門の虎 後門の狼」とは、前から来る虎を防いでも、すぐに後ろから狼がやって来るという意味であり、災難などの辛いことが次から次へと起こるということの譬えである。
今の日本列島を見ているとまさしく「前虎後狼」である。
6月には「大阪北部地震」が発生し、死者5人、負傷者400人以上という大被害を蒙った。高槻市では小学校のブロック塀が倒壊し、女子児童が死亡した。7月には、「平成30年7月豪雨」によって、岡山、広島などの中国地方、四国地方に未曾有の被害をもたらした。総務省消防庁によれば死者220人、行方不明者10人となっている。住宅の全壊、半壊、一部損壊を合わせると約1万5000戸、床下・床上浸水は3万3000戸以上に及んでいる。
埼玉県熊谷市で41.1度を記録したこの夏の猛暑も、気象庁が指摘したように「災害」と言えるものであった。そして9月4日の台風21号による災害である。関西国際空港は海の孤島となった。トラックがまるでマッチ箱のように飛ばされて回転し、屋根がめくれて吹き飛び、数多くの看板が落下した。私は大阪と県境を接する兵庫県生まれだが、台風の暴風によって大阪がこんな被害に見舞われることなど想定したこともない。私にとっては、やはり「想定外」である。
「想定外」というとすぐに批判の声が上がる。東日本大震災の時も、あの大津波を「想定外」だとする議論に、批判の声が巻き上がった。「すべて想定しろ」というわけである。23年前の阪神淡路大震災の時にも、同様の議論がなされた。その際、200数十年前、ジャン・ジャック・ルソーが、「自然は決して人間を欺かない。人間を欺くのは常に人間である」と述べたことなども援用された。
だが「想定外」という意見を全て批判する議論が本当に真っ当なものなのか。阪神淡路大震災の数日前、大阪市西淀川区(兵庫県と接している)の義妹の家にいた。何故か地震のことが話題になり、「東京は地震が多いが、こっちは地震がなくていいよな」という会話をしたばかりだった。それがあの大地震である。地震学者は警告をしていたという指摘も発災後なされていた。
東日本大震災でのあの大津波に対しても、大津波を警告していたという指摘がなされた。
だが、あの大津波を防げる堤防を日本列島の全ての危険箇所に建設することが、本当に可能なのか。阪神淡路大震災に匹敵する揺れにびくともしない街づくりは、本当に可能なのか。そもそも地震の予知そのものが現在の人間の知見では不可能なのだ。数十キロ、数百キロの地下の動きを見た人間は誰もいないのだ。
この原稿を送付した翌日に、北海道で震度6強の大地震が発生した。改めて自然の驚異に慄然とする。人間が把握出来ていないのが自然なのだ。「想定外」のことが起こるのが自然なのである。この自然の前に謙虚になり、人間は何でも可能などと思い上がらないことこそ、最大の災害対策なのだ。