外交官時政策提言シリーズ 2
「国家安全保障/国土強靭化に関する提言」
高高度電磁パルス(HEMP)攻撃によるインフラ破壊の脅威への対処
近年、科学技術は急速に著しく進歩しております。中でも宇宙・サイバー空間、及びその基盤となる電磁波全域(電磁スペクトラム)を活用する技術の進歩が目覚ましく、その恩恵を受けて、我々の諸活動は従来に比べ、格段に効率的、能率的になってきています。
特に先進国では、個人、国家機関、自治体、企業、学術・研究機関等といった様々なアクターが利用する輸送、通信手段、コンピュータ等の業務遂行手段等と社会インフラが、発電所から送られる電気や、宇宙・サイバー空間及び電磁波全域における活用技術を利用した国際公共財に益々依存するようになっています。
例えば、今年3月に発生したJR高崎線での送電線の絶縁体(碍子)の破損は、大電流の漏洩によって信号機器や配電盤等の熱損を引き起こし、同路線では約3日間も運行停止となりました。また、悪意あるサイバー攻撃、特にマルウェア(悪意のあるソフトウェア)を利用した攻撃によってコンピュータシステム及びスマートフォン等の制御部分が乗っ取られる、或いは情報が漏洩するといった事例からも、この脅威は想像に難くないでしょう。
各国は、宇宙・サイバー空間及び電磁波全域における平和的な活用技術の開発、向上に努める一方で、その技術の破壊、低減を狙う軍事的な活用技術、特に兵器の開発にも大きな努力を傾注していると見られています。これらの兵器は、物理的破壊を行う精密誘導兵器や指向エネルギー兵器等、非物理的な破壊、混乱等を狙った航空機搭載型或いは地上基地型の電波妨害兵器、そして電磁波によるサイバー兵器等として、既に実用化されております。特に、強力な電磁波による電力・電子機器やシステムの破壊等を狙った兵器の存在は、我が国を含む世界の安全保障にとって看過できない極めて大きな問題として着目されつつあります。
以上の観点から、2014年9月に発足した私どものCBRNE研究会では、宇宙・サイバー空間及び電磁波全域の軍事的な利用技術や兵器の中でも最大の脅威であると考えられる、高高度における核爆発が引き起こす強烈な電磁パルス、即ち高高度電磁パルス(HEMP)に着目して、研究を行ってまいりました。本政策提言はその研究成果に基づくものであります。
政策立案者はもとより関係者皆様が、本提言をお読みいただき、HEMPを新たな重大な脅威と認識し、速やかに対策を講じることを切に願います。
本提言が、我が国の国土強靭化に強い関心を有する多くの方々の政策判断に資するとすれば、日本戦略研究フォーラム関係者一同の心からの喜びとするところであります。(序言より)
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