トランプ登場後の米露・日露関係

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拓殖大学海外事情研究所教授 名越健郎

トランプ登場後の米露関係
 ロシアを中心に米露関係、日露関係についてお話しいたします。
 本日のこれまでのお話ではプーチンは軍事力を誇示し、彼の世界戦略はうまく展開しており、影響力を強化しているというような認識でしたが、私は外からロシアを見ておりまして分不相応の戦略を進めているように見えます。本当に大丈夫かなと思わざるを得ません。
 世界銀行が毎年ホームページで公開しているドル換算の国内総生産(GDP)ランキングがありますが、それを見るとロシアは現在世界12位です。11位は韓国です。額を比較すると、ロシアのGDPはアメリカの7%、中国の12%、日本の30% に過ぎません。通貨が下落した昨年初めはインドネシアの下の15位でした。そういう経済力の国が世界戦略を活発化していて、ウクライナとシリアで二つの戦争を展開しています。ウクライナの紛争は沈静化していますが、シリアの戦費は1日2億ドル。欧州戦線でも、北大西洋条約機構(NATO)に対抗するため抑止力を強化せざるを得ない。南部はロシアにとって不安定な地域。そして新たに北極海部隊を創設しようとしています。北方領土にも新型ミサイルを配備しました。ソ連軍は世界最大の550万人いましたが、ソ連崩壊後ロシアはリストラをし過ぎて、正規軍は現在90万人しかいません。それを西部、南部からシリア、北極海、極東に張りつけていているのです。こんなに腕を広げて大丈夫かなと思って見ています。
 経済は、昨年と一昨年はマイナス成長で、原油価格の下落と欧米による経済制裁のダメージを受けています。外国企業も次第に撤退しつつある一方で、ここ数年国防費が年30%ずつ上がってきたため、GDPに占める国防予算は4.7% にまでなりました。今年はさすがに減らすようですが、相当な無理をして拡張政策を進めてきたということです。
 本来であればロシアのような国はアメリカと張り合うことは到底できませんが、プーチンはこれだけ愛国主義を進めた手前、引くに引けなくなりました。昨年のアメリカ大統領選挙ではロシアはトランプの当選を望んでいたと言われていますが、正確にはトランプ当選を希望するよりも、ヒラリーが落ちることを望んだ、という方が正しいでしょう。つまり、クリントン政権ならオバマ政権の戦略が継承されて、ロシアに圧力が行使されるのを避けたかった。国営・ロシア新聞の一面トップが「ヒラリーではなかった」という見出しを掲げていました。議会でトランプ当選が発表されると全議員は立ち上がり、嵐のように拍手をする。主要国でトランプ当選を望んだのはロシアだけです。