変化球を投げた安倍首相
安倍首相が憲法9条の改憲提案を行った。その提案とは、9条について1項、2項はそのまま残して、新たに3項を立て、自衛隊の存在を明記しようというものである。自民党では、9月中にも改憲案をまとめ、公明党などとの協議に入りたいという考えのようだ。
今回の改憲提案は、なかなかの変化球である。自民党が平成24年4月27日に決定した改憲案では、9条については、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」という2項を削除し、新たに「国防軍を保持する」ことを明記するものであった。石破茂前地方創生担当相も指摘しているように、この自民党の改憲案とは、明らかに異なるものである。
憲法9条と自衛隊というのは、もともと厄介な関係にある。現在の憲法は、公布が昭和22 年5 月3 日であることが示すように、連合軍の占領下で作られたものである。我が国は、まだ独立国でもなく、国家主権すらなかった時代である。
独立国でもなかった国で、「国の独立を守る」ことを最大の使命とする軍隊の規定が憲法に盛り込まれなかったのは、当然のことであった。自衛隊が創設されるのは、憲法公布から7年後の昭和29年である。軍というものを想定していなかった憲法のもとで、自衛隊という名の軍事組織を創設するには、アクロバティックな憲法解釈が不可避であった。
防衛省のホームページには、「恒久の平和は、日本国民の念願です。この平和主義の理想を掲げる日本国憲法は、第9条に戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認に関する規定を置いています。もとより、我が国が独立国である以上、この規定は、主権国家としての固有の自衛権を否定するものではありません。政府は、このように我が国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上認められると解しています」とある。要するに、憲法9条2項が禁じた「戦力」は保持できないが、「必要最小限度の実力」は保持できるという訳である。
しかし、自衛隊は、国際的には軍隊として認められている。換言すれば、「戦力」だということである。憲法学者の7割近くが、自衛隊の存在は違憲だという理由がここにある。大多数の国民が、自衛隊は必要な存在だと思っているはずだ。にも拘わらず、その自衛隊が憲法違反だという議論がなされること自体、不幸だし、不正常なことである。