ワシントンD.C. で米国の 国家安全保障政策・戦略について考える

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政策提言委員・GRIPS非常勤講師(元空将) 廣中雅之

 私は、去る6月に米国ワシントンDCでの2年間の研究留学を終えて帰国しました。帰国して、最初に驚いたのは、日本では、トランプ新政権の動向について新聞やテレビで、連日、かくも多くの報道がなされているということです。我が国と同盟関係にあり、政治、経済を始め、あらゆる分野で大きな影響を受ける米国の新しい指導者、新政権の政策や戦略に国民の皆さんが高い関心を持つことは、とても良いことだと思います。しかしながら、政治の街ワシントンDCで、トランプ政権の動向について思いを馳せると、米国の現実は、現在、日本で盛んに報道され、国民の多くの皆さんが理解しているトランプ政権の評価とは、いささか違うように思えます。私は、この2年間、米国の国家安全保障研究所の上級研究員として、米国人研究者、専門家とともに、米国の対外政策や戦略に関する政策提言をするための研究プロジェクトに従事しました。
 本稿では、これらの研究プロジェクトを通じて米国人研究者、専門家と恒常的に意見交換を行ってきた経験を踏まえ、トランプ政権に対する米国における現実的な評価を中心に述べてみたいと思います。

1.トランプ政権下の政治構造
 最初に、トランプ政権の政権運営の狙いと政治構造などについて述べてみたいと思います。
 トランプ政権の滑り出しは、明らかに2018年の中間選挙、次回の大統領選挙を見据えた有権者の支持固めであり、また、支持基盤の掘り起こしを最優先にしたものでした。トランプ大統領就任以来、大統領支持率は低下し続けており、就任100日後の支持率としては、歴代大統領の中で史上最低の40% 台であると、基本的に民主党を支持し続けている多くの米国メディアは盛んに報道しました。しかしながら、同時に、選挙公約として有権者に約束したカードを切り続けているトランプ大統領に対し、昨年の大統領選挙でトランプ大統領に投票した有権者層の支持率は96% と非常に高いことも明らかになっています。トランプ大統領に投票した有権者で、「後悔した」と答えた有権者は、2% しかいません。総じて、2016年大統領選挙でトランプを支持した有権者層の政権支持率に殆ど変化はなく、敵対する民主党関係者やメディアの分析とは異なり、トランプ政権は、政権基盤の支持固めに基本的に失敗はしていません。
 また、支持基盤の掘り起しも、現時点で多大な成果が上がっている訳ではありませんが、少なくともマイナスにはなっていません。ワシントンDCの多くの研究者、専門家が、トランプ政権はまずまずの政権運営をしていると冷静に分析していることを知っておかなければなりません。