安倍外交に転機、戦略修正も

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拓殖大学海外事情研究所教授 名越健郎

官邸主導で成果
 「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を掲げる安倍晋三首相は、驚異的なペースで諸外国を訪問し、各国との連携を強めて日本のプレゼンスを高めてきた。2012年12月の第二次安倍内閣発足後、安倍首相が訪れた国・地域は17年7月初めまでに70ヵ国・地域。延べ訪問国・地域は120を超えた。外遊回数や外遊の頻度は、歴代総理ではトップだ。この間、オバマ米大統領の初の広島訪問やプーチン露大統領との平和条約交渉、トランプ大統領との当選直後の会談などが国際的な脚光を浴びた。
 一連の「地球儀外交」を通じて安倍首相は、民主党政権時代に動揺した日米同盟関係を立て直し、東南アジア諸国連合(ASEAN)やオーストラリア、ロシア、インド、トルコなどとの関係を強化し、経済的利権を確保しながら、日本の発信力・発言力を高めた。各国でアベノミクスを売り込んで投資受け入れを図り、日本のソフトブランドをアピールして外国人観光客の急増をもたらした。2016年の外国人訪日客数は空前の2,400万人に達し、内需拡大や総合収支の黒字に貢献した。首相はアフリカや中南米など、日本の首相がこれまで訪れていなかった国も回り、日本の存在感を高めた。首相が13年に米国での演説で述べた「ジャパン・イズ・バック」が、少なくとも外交面では実現しつつある。
 安倍政権の外交は民主党外交を反面教師にしているとは言え、実際には民主党3 番目の政権となった野田佳彦政権の路線を踏襲している部分が少なくない。野田政権は鳩山、菅両首相時代の不安定な外交・安保政策を立て直し、現実路線に修正した。安保問題に詳しい森本敏・拓殖大学教授(現同大学総長)を防衛相に起用したり、米政府に知人の多い長島昭久衆院議員を首相補佐官に起用するなどの人事も効果があった。その結果、日米防衛関係の修復は野田政権時代に実現したし、ロシアとの関係強化も12年7月の玄葉光一郎外相とプーチン大統領との会談で道筋が敷かれた。
 一方で、日中関係の悪化は野田政権による尖閣諸島国有化の打撃を今も引きずっている。日韓関係の険悪化も、慰安婦問題の深刻化や李明博大統領(当時)の竹島視察など、野田政権時代から続いている。実際には、安倍外交は野田政権の外交安保路線を継承している側面が少なくない。
 安倍外交の大きな特徴は、従来の外務省主導外交を排し、官邸が司令塔となって政治主導を徹底させたことにある。日中国交回復、沖縄返還などの例外を除けば、戦後の日本外交は、官邸が外務省に外交をほぼ丸投げし、外務省が外交を独占してきたところがあった。