進行する“パナマ現象” の現実

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研究員・ジャーナリスト 児玉 博

パナマの台湾断交、中国との国交樹立
 6月13日、南米の小国パナマが100年以上にも亘り関係を築いてきた台湾と断交し、中国との国交を新たに樹立したことを宣言した。
 台湾政府は、建国以来、国際的な孤立を避ける為にパナマのみならずコスタリカ、ガンビアなど南米各国との関係を莫大な資金援助を行いながら築いてきた。取り分け、国交が107年にも上るパナマは、台湾にとって最も重要な相手国としてきた。にも拘わらず、パナマは台湾を捨て中国に乗り換えた。理由は簡単だった。中国政府が台湾政府以上の資金援助を確約したことにあった。
 中国との国交樹立を宣言する2日前、中国国営企業「嵐橋集団公司」(ランドブリッジグループ)が出資するコンテナ専用の港湾施設の着工式に、わざわざパナマの大統領、ファン・カルロス・バレー氏等が出席したのもその予兆だった。中国はこうした港湾施設以外にも地下鉄工事など重要インフラ部門に7億5千万ドル(約850億円)もの投資をすると発表している。
 現在、台湾との国交を正式に結ぶ国々の大半は中南米に集中している。その数およそ20ヵ国。こうした国々に“パナマ現象”が起きるのは時間の問題とも見られている。
 国際貿易の要衝、パナマ運河を抱えるパナマが“赤く” 染まったことは米国にとっても深刻な事態だ。それと同様に日本にとってもパナマの寝返りは重要な意味を持つ。何故ならば、日本の安全保障上、極めて重きをなす国がパナマと同じように“チャイナマネー” によって、“赤く” 染まるかも知れないからだ。
 
パラオに触手を伸ばす中国
 その国の名はパラオ共和国。日本から3,200キロ離れた太平洋に浮かぶ小さな島国だ。人口僅か2万人余り。200以上の島々からなる島国が何故日本にとって重要なのか。それは世界地図を見れば一目瞭然だろう。
 中国は対米戦略上の戦略展開の目標ラインを定めている。日本の九州を起点として西沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオに至る「第1列島線」、そして小笠原からグアム、サイパン、パプアニューギニアに至る「第2列島線」がそれである。パラオはこの「第2列島線」上に位置する重要拠点なのである。
 「第1列島線」を実質的に支配下とする中国にとり、「第2列島線」を支配下に置くことは至上命題となっている。台湾との国交を持つパラオは正に格好の標的なのである。
 今年1月8日、中国共産党の機関誌「人民日報」は次のような記事を掲載した。「空母は“引き籠り” ではない。いずれ第2列島線を越えて東太平洋に出る」
 この空母とは3年前に就航した「遼寧」のことだ。わざわざ米国、日本を挑発するように「第2列島線」に言及するなど、中国の意思の表れに他ならない。