中国海警局の特徴と日本の対応

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防衛省防衛研究所主任研究官 下平拓哉

はじめに
 海上における警察、即ち海上法執行機関として一般的なものが沿岸警備隊(Coast Guard)であり、日本では海上保安庁が相当する。2013 年7月22日、中国の沿岸警備隊に相当する中国海警局(China Coast Guard: CCG)が正式に発足した。その中国海警局船舶が日本領海内に侵入する事案が相次いでいる。
 2017年8月10日、中国海警局の「海警2506」と「海警1304」の2隻が、初めて鹿児島県佐多岬沖の日本領海内に進入した。この2隻は、7月15日に、長崎県対馬市南西及び福岡県宗像市沖ノ島北の日本領海内に侵入し、7月17日には青森県竜飛崎沖の津軽海峡の日本領海内を航行している。このように、近年、尖閣諸島周辺海域のみならず、中国公船の活動が活発化・拡大化していることは注目すべき特徴である。
 中国海警局に関する先行研究は、越智均・四元吾朗や竹田純一によるもの、そして米海軍大学中国海事研究所(China Maritime Studies Institute: CMSI)のゴールドスティン(Lyle J. Goldstein)准教授やマーチンソン(Ryan D.Martinson)助教授によるものがある。
 中でもマーチンソン助教授は、CMSIの膨大な中国語データベースを分析している中国海警局研究の第一人者であり、「中国海警局は維権(weiquan)、即ち権益擁護のための艦隊」であり、「中国第2の海軍」と位置付けている。
 本稿は、主にマーチンソン助教授の最新の研究成果に基づき、中国の海上法執行機関の概要を踏まえた上で、中国海警局の特徴と武装化が進む状況について分析するとともに、今後の日本の対応について考察するものである。

1.中国の海上法執行機関
 中国では、もともと国土資源部国家海洋局の海監総隊(海監: China Marine Surveillance: CMS)、公安部辺防管理局の海警(海警: China Maritime Police/China Coast Guard: CMP)、交通運輸部海事局(海巡: Maritime Safety Administration:MSA)、農業部漁政局(漁政: Fisheries Law Enforcement Command:FLEC)、国務院海関総署の緝私警察(海関: General Administration of Customs: GAC)という5つの行政機関が海上法執行に当たってきた。その主な任務については、海監・漁政は資源や環境と海洋権益の確保、海警・緝私警察は海上の治安確保と犯罪摘発、海巡は海上交通安全と整理できる。これらは五龍と呼ばれ、なかでも海監と漁政が専ら海上の最前線に立ってきた。