北朝鮮を変える

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顧問・元大韓民国駐箚特命全権大使 武藤正敏

 只今、ご紹介頂きました武藤でございます。
 本日は役人的ではなく、あまり外務省が言えない内容をお話ししたいと思います。
 朝鮮問題に関しては、出口が見えない所まで来ていると思います。外務省などからは、北朝鮮に対して、より強い制裁を加え、圧力を加えることにより、対話のテーブルに着かせるといった方法が一般的に言われています。しかし実際にはそう簡単には行かないでしょう。現在の情勢を踏まえると、北朝鮮問題を考えるには次の3つの前提条件を念頭に置く必要があるかと思います。

金正恩の思惑
 北朝鮮は自主的には非核化はしないと思われます。何故ならば、金正恩は核の保有が自己の生存の前提と思い込んでいるからです。こう思うに至った理由として、リビアのカダフィ政権が辿った運命が挙げられます。リビアはアメリカ及びイギリスなどとの交渉の結果、非核化を選択して国際社会に受け入れられました。一方で、アラブの春により中東諸国が民主化の波に乗ると、欧米諸国は反カダフィ政権を支援しました。その結果、カダフィ政権は打倒され、最終的にはカダフィの殺害にまで至ったのです。
 また、最近では、トランプ大統領がイランの核開発を制限したイラン核合意について、「悪い合意であり、同意しない」と主張しています。このことから、金正恩は核に関して国際社会と何らかの合意をしたとしても、その後についてはどうなるか分からないと考えるに至っているでしょう。
 金正恩としては、核を搭載したアメリカ本土に到達するICBM(大陸間弾道弾)を保有する事でアメリカとの交渉の機会を得て、在韓米軍の撤退・平和条約の締結を目論んでいるのではないでしょうか。そして最終的には朝鮮半島の赤化統一を目指していると思います。

金正恩は対話に応じても時間稼ぎだけ
 金正恩が核開発を継続する国内的な理由を考えてみたいと思います。これまで金正恩は政権の座に就いてから、親族である張成沢を始めとし、300名を超える側近を粛清しました。また、90年代には50万人を超える国民が飢餓や寒さによって死んでいます。そうした中においても、金日成、金正日の時代から核やミサイル開発を継続しており、今日においては制裁によって益々経済的に疲弊しつつも、相変わらずそれらの開発は加速しております。
 多くの国民の命を犠牲にすることを厭わず核開発をして来ましたので、この時期になって国際社会からの圧力によって開発を止めることはないと思います。