はじめに
平成30年は日本の安全保障・防衛にとって今後の行方を左右する節目の年となる。政治日程に上っている憲法改正の内容、今年1年をかけて見直される防衛計画の大綱、新たに策定される中期防衛力整備計画など、中長期の方向性を決める重要な課題に結論が出される予定である。安全保障環境をみると、北朝鮮の核・弾道ミサイル脅威に対する軍事的手段を含む選択肢について国際的な外交的・経済的圧力の効果を見極め、いずれを採択するか決心が必要となろう。
中国の海洋進出は更に勢いを増し、尖閣諸島を含む東シナ海での軍事的緊張が持続すると予想され、不測事態勃発の恐れも否定できない。このような状況を踏まえると、直面する現実的脅威に対し、自衛隊が国際規範に照らして適正かつ実効的に対処し得る国内体制を整備することは、我が国防衛に直結する喫緊の課題である。年頭に当たり、その最重要かつ核心の課題、即ち憲法9条2項に由来する制約を除去し現場で勤務する自衛官が躊躇なく誇りを持って任務を遂行できる法整備の課題について、論点を整理する。
1 憲法改正で何を目指すか?
憲法改正のハードルは極めて高い。特に第9条は現憲法の掲げる平和主義の象徴であり、政党内においても意見集約が難しい機微な課題である。国会決議を経た改正案が国民投票で否決されることは絶対に避けなければならないという政治判断は十分理解できる。安倍総理の「第9条1項、2項は変えず、第3項で自衛隊を位置づける」という考えは、与党公明党との関係も考慮した判断によるものであろう。
これに対し、自民党石破茂元政調会長からは、自衛隊を国防軍として明記する平成24年決定の自民党改正案との関係や、2項と3項との矛盾を指摘する否定的な意見がある。更には、戦力や交戦権を否定する2項の削除を主張する声も多い。
いずれの案も自衛隊が違憲とされる状態を解消する点で、現状よりも改善されることは間違いなく、身の危険を顧みず国防に精励する自衛官にとって正統に「認知」されることは悲願であった。言わば、精神論・感情論として必要な改憲である。
一方で、国防軍と明記する自民党案を含め、憲法改正後の自衛隊(呼称は置く)が現自衛隊と何が変わるのか、これまでの議論ではまだ見えてこない。我が国のこれまでの防衛政策は、解釈上違憲とならない範囲を、安全保障環境等の現状に照らして少しずつ変更してきた積み重ねである。極めて限定的に集団的自衛権の行使を可能とする平和安全法制がその典型である。
過去の国会では「自衛隊は戦力か」との議論が交わされ、保有可能な戦力(ICBM、長距離戦略爆撃機や攻撃型空母は不可、核兵器・敵基地攻撃能力は違憲ではないが政策として保有せず)や武力行使の手続き(自衛権発動の三要件、国会承認等)等が定められてきた。