侮れなくなった北朝鮮のサイバー戦能力

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政策提言委員・軍事/情報戦略研究所長 西村金一

 北朝鮮軍は現在、核兵器や弾道ミサイル開発に努力を集中させている。旧式兵器を近代化するために、韓国の半分の地域にロケット弾を打ち込むことができる300ミリ多連装砲や首都平壌を空からの攻撃から守るS-300新型防空ミサイルなどの新型兵器を導入しているものの、軍全体の近代化と軍事力増強には程遠く、特に海空軍については、韓国軍との格差は広がるばかりである。
 1991年の湾岸戦争や2003年のイラク戦争では、近代兵器に熟知しているつもりであった我々でさえも、テレビ画面に映る精密誘導兵器が数百キロ離れた海域から、正確に目標の建物に命中する凄さに大きな衝撃を受けた。近代兵器を保有していない北朝鮮軍の高級将校は、画面に映ったような攻撃を自分達も受けるかも知れないという大きな不安と恐怖を受けたに違いない。北朝鮮軍は当時、軍事的対応策を速やかに検討し、新たな作戦戦略を立案、実戦に向けて試行し始めた。北朝鮮はこの時、韓国を軍事力で統一する国家目標はそのままで、膨大な近代兵器を保有する米軍には、勝つのではなく、負けない戦略に転換したのではないかと思われる。
 近代的な兵器を中国やロシアから購入するには、膨大な費用が必要であり、兵器の近代化は、ほんの一部だけを達成したに過ぎなかった。そこで、近代的兵器の劣勢を補うために、比較的経費が少なくて効果が大きいサイバー戦に力を注ぎ始めた。
 金正恩委員長は、「サイバー戦は、核・ミサイルと並ぶほどの軍事力であり万能の宝剣だ」と述べ、軍事情報の入手の他に、相手国の軍事機能や経済機能を混乱させ、資金の入手のために使用し始めた。
 当初、北朝鮮によるこれらの攻撃は、低レベルであったことや韓国の対策により大きな被害は出ていなかった。しかし、近年、北朝鮮はサイバーテロや電波妨害を実行する組織を拡大し人員を増加させた。そして、韓国、米国国内の企業、東南アジアの銀行、日本などの原発などにサイバー攻撃をかけ、情報やお金を盗み取る成果を、それは限られたものではあるが、挙げられるようになった。
 以下、①北朝鮮によるサイバー戦の変遷 ②北朝鮮のサイバー戦能力と北朝鮮のネット事情 ③北朝鮮サイバー戦能力の評価―の順に分析し、説明する。
 但し、サイバー戦の実態については、攻撃をする側も攻撃を受けた側も、その実態を明らかにしない。