地上の楽園ここにあり

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顧問・元トルコ国駐箚特命全権大使 山口洋一

 明治維新以来、近代国家建設に邁進してきた日本は、幾多の紆余曲折はあったものの、今日の民主的近代国家を形成するに立ち至った。そして今日ある日本の姿は、他国に類例を見ない「地上の楽園」と言える国になっている。これは40年の外交官人生を通して私が体験してきたところであり、誇りをもってこう断定できる。ただ多くの日本人はこの有難い事実に気付いておらず、その実感をもっていない。これは何とも残念なことであるが、我が国の実情と外国の様子とを比べてみれば、如何に我が国が「地上の楽園」なのかが納得できる。

安全
 日本ほど安全な国はない。女性や子供が一人で暗い夜道を歩いていても、身の危険を感じずに平気でいられる国は、数少ない。
 銃の所有が認められているアメリカでは、乱射事件で多数の死傷者が出る事件が頻発している。2017年10月1日には、娯楽の殿堂とされるラスベガスで、屋外のコンサート会場を狙った銃撃事件が起こり、58人もの犠牲者が命を落とした。それでも銃の所有を禁止すべきだとする意見と、禁止すべきではないという意見とが拮抗している。国内の治安は警察が責任をもって掌(つかさど)る法治国家では考えられない状況で、何とも物騒な国である。
 物騒なのはヨーロッパでも変わりはない。フランスやイタリアで酷い目に遭った経験は私ばかりでなく、枚挙に暇(いとま)がない。
 況や、発展段階の遅れている国々では、強盗、泥棒、強請(ゆす)りなどが蔓延し、危険極まりないところが多く、暗い夜道を歩くなど思いもよらないのはもとより、強盗が押し入ってくるのにも注意を絶やすことなく、屈強な守衛(ガードマン)を雇い入れることが不可欠となる。
 ところが、このような外部からの押し入りに怯えるばかりでなく、自宅で雇っている使用人にも、決して安心してはいられない。カメラや宝石、腕時計などがいつの間にか消えてしまったことも何度かあり、これは使用人の仕業に違いないのだが、泥棒扱いして厳しく追及する訳にも行かず、困惑するばかりであった。使用人に疑いをかけて問い糺したりすると、彼らは逆恨みをして、何を仕出かすか分からないのである。現にラオスでは、日本大使館員の自宅に賊が押し入り、書記官夫婦二人とも惨殺されるという事件があったが、解雇した現地人使用人が逆恨みをして犯行に及んだということのようだった。途上国勤務は文字通り命がけなのである。

四季の恵み
 画然とした春夏秋冬に区切られた四季があり、しかも適度に潤湿な国は地球上、温帯に位置する恵まれた国に限られる。これが如何に恵まれているかは、それ以外の国と比べれば歴然としている。この恵まれた国柄が、日本人の情緒や感性を育み、多くの文学や芸術作品を生んできた。