日本の近代と伊藤博文の「知のフォーラム」構想
―共産主義を肯定した吉田ドクトリンの「知の断絶」とその克服-

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政策提言委員・作家・歴史資料収集家 福冨健一

アメリカのROTCとオフィサー・アンド・ジェントルマン
 各国家は、力の体系、利益の体系、価値の体系である(『国際政治』高坂正堯)。それでは日本の近代とは、明治以降この三体系をいかに統治機構に組み入れて来たのか。これを知るため本稿では、アメリカの士官学校、伊藤博文が導入した官僚制度、共産主義の日本への浸透の歴史と吉田茂の対応を検証し、日本の方向性を論稿する。
 先ず、アメリカでは将校をどのように養成するのか見てみよう。
 過日、ハドソン川沿いにあるウェストポイント(米国陸軍士官学校)を訪れた。私がここでジェントルマン教育について訊ねると、「士官の教育とジェントルマン教育は不可分で、我々は生徒をオフィサー・アンド・ジェントルマン(Officer and Gentleman)と呼ぶ。紳士であることに加え、正しい行動をとるようにきめ細かい指導を行っている」「仲間を失った際の部隊の任務をいかに遂行するかについても講義している」とリアリティある説明を受けた。
 「オフィサー・アンド・ジェントルマン」は、映画『愛と青春の旅だち』の原題にもなっている。ウェストポイントの入り口には、倫理規定(Honor Code)の「嘘をつくな、騙すな、盗むな、このような行いをした者を許すな」と記したモニュメントがあり、生徒達の行動のシンボルになっている。続いて、陸軍の将官の出身校の割合を質問すると、「ウェストポイント20%、ROTC75%、一般の部隊5%」という答えであった。
 そこでROTC(Reserve Officer Training Corps 予備役将校訓練課程)を実施している高校や大学を調べてみた。高校は「US Army Junior ROTC Programs」、大学は「US Army Senior ROTC Programs」を実施している学校である。紙数の関係から州の頭文字ABCの3州の学校数のみを例示的に紹介すると、下記の通りである。


 調査して驚いたことは、アメリカでは有名校の殆どで将校訓練課程を受講できることである。「オフィサー・アンド・ジェントルマン」は、英国の将校を象徴する慣用句であり、単なる呼称でなく相応しくない行為は軍法会議の処罰対象になる。英国でも連合将校養成隊(Combined Cadet Force)という制度で、中学から将校養成のためのプログラムが導入されている。イギリスでは、日本と違い官僚や有識者、財界人など多くの方々がラグビーなど運動クラブを経験するように、軍事訓練とジェントルマン教育を受講している。英米の各界リーダーたちの多くが軍事訓練を受講している。軍事や道徳教育を忌避する日本と違う。