我が国の防衛産業とその課題

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監事・元三菱重工㈱航空宇宙事業本部副事業本部長 西山淳一

はじめに
 2014年4月、安倍内閣により「防衛装備移転三原則」が新しく制定された。それから4年経ち武器輸出が可能になったはずであるが、武器輸出は一向に進んでいるようには思えない。戦後長く続いた「武器輸出三原則等」による武器輸出禁止の呪縛から、未だ解き放されていない。このような状況において、日本の防衛産業の現況と、その課題は何かを取り上げる。

我が国の防衛産業の状況
 世界の中での日本の防衛の位置付けを理解するために、世界の国防費の推移を整理する。冷戦期では米国とソ連の国防費はほぼ同程度であった。冷戦終了後、ソ連崩壊と共にソ連の国防費が大幅に減少したので、全世界の国防費は急激に減少したが、米国は若干減少している程度である(図1)。
 2001年(ジョージ・W・)ブッシュ大統領の時に起きた米国同時多発テロから米国の国防費は増加し、2011年にピークを迎えた。その後、オバマ政権で減少している。最近では中国の国防費の増加が著しいが、米国は依然として世界最大で、全体の4割弱を占めている。
 過去10年の国防予算の伸びを見ると、各国とも増加しており、ロシア:2.0倍、中国:3.01 倍、韓国:1.65 倍、オーストラリア:1.60 倍、米国:1.08 倍であり、日本は平成25 年度から連続して増加しているが、その伸びは僅か1.02倍である。
 中国は過去10年間で約3倍であるが、過去29年間で見ると約49 倍となっており、大幅な増加がみられる。しかもその数値は全額を示していないと言われている。
 各国の国防費のGDP比は米国3.4%、ロシア3.9%、韓国2.4%、オーストラリア2.0%、英国2.1%、フランス1.8%、ドイツ1.2% である。NATOはGDP比2%を目標としているがEUの平均は1.3% で達成していない。中国はGDP比1.3% であるが、もっと多いだろうと言われている。日本は多少増えているが、依然として1.0% である(表1)。
 次に、我が国の防衛産業の位置付けを見ると、平成26年度の我が国の名目GDPは約500兆円、工業生産額は約300兆円である。防衛関係費は約4.8兆円(平成30年度は5兆円)、防衛生産額は約2.1兆円である(図2、表2)。
 つまり、日本の防衛産業の規模は我が国の工業生産額のわずか0.7%であり、非常に小さいことが判る。
 年々減少していると言われているパチンコ事業と比較してみると、パチンコ事業は平成26年で24.5兆円、平成27年で23.2兆円であり、防衛産業はその10分の1しかない。