米朝首脳会談と今後の展望
―北朝鮮は核を放棄しない。日本は最悪を想定し準備を―

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政策提言委員・元航空支援集団司令官 織田邦男

政治ショーに終わった米朝首脳会談
 国際社会が注目する中、歴史的な初の米朝首脳会談が6月12日、予定通り行われた。結果は具体的な中身に乏しく、象徴的な政治宣言に終わった印象は拭えない。共同声明には米国が要求していたCVID(Complete, Verifiable and Irreversible Denuclearization「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」)という文言はなく、全ての核兵器及び開発計画の放棄を明記した6ヵ国協議共同声明(2005年)よりも後退している。また弾道ミサイルについても全く触れられていなかった。
 他方、北朝鮮の狙いの一つでもあった「経済制裁緩和」についても言及はなく、金正恩の思惑は外れたのかも知れない。かろうじて米国が「北朝鮮に安全保障を約束」し、北朝鮮が「朝鮮半島の完全な非核化」への固い決意が確認されたということが成果といえよう。これではCVIDではなく、CVIG(Complete, Verifiable and Irreversible Guarantee「完全かつ検証可能で不可逆な体制保証」)だと揶揄する声も聞かれる。

全ては今後の事務レベル協議に持ち越された
 今回の首脳会談は、これまでのような外務省、国務省が積み上げる外交交渉ではなく、具体的中身が詰め切れないまま見切り発車で実施された会談であった。それゆえ会談それ自体が「劇場化」しており、米朝両国が「会談成功」と高らかに宣言することが目的化していた感がある。
 ドナルド・トランプ米国大統領が述べたように、金正恩朝鮮労働党委員長との個人的関係ができたことは確かであり、全ては「マイク・ポンペオ米国務長官と北朝鮮の担当高官が主導」する今後の事務レベル協議に持ち越されたといっていいだろう。
 これまで「非核化」については北朝鮮に騙され続けてきた。1994 年、「米朝枠組み合意」で「核開発凍結」に合意しておきながらも、密かに核開発は続けられ、これが発覚した2002年に破綻した。2005年の6ヵ国協議共同声明では「検証可能な非核化」に合意したものの、翌年の核実験で破綻した。
 板門店宣言では「朝鮮半島の完全な非核化」が盛り込まれ、今回の米朝首脳会談では金正恩の「ゆるぎない、固い決意」が示されたが、「三度目の正直」が実現するか全く不透明である。
 朝鮮戦争の「休戦状態」の「終戦化」についても、関心の的であったが、「新たな米朝関係の確立と朝鮮半島における持続的かつ強固な平和体制の構築に関する諸問題について、包括的で詳細、かつ誠実な意見交換」を行ったと述べるにとどまっている。