表舞台に出てきた金正恩の深層にある意図を読む
―北朝鮮には、核・ミサイルを廃棄する意志は見えない。嘘つき国家に変わりない―

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政策提言委員・軍事/情報戦略研究所長 西村金一

 北朝鮮の金正恩委員長は、米国と韓国の大統領との会談で、“朝鮮半島の完全な非核化に取り組む”ことは約束したが、「北朝鮮(以後、北と標記)の核を放棄する」とは一度も発言しなかった。しかし、二人の大統領は、金正恩委員長を“信頼できる” “信じている”と言う。何故、「信頼できるのか、その根拠は何か」の質問には答えていない。
 米朝会談の共同声明には、米国が強く主張していた“完全かつ検証可能で不可逆的な非核化” が盛り込まれなかった。米国は、更に、北の核を廃棄させる具体的な道筋と期限を決められなかった。トランプ大統領は交渉人と自称する人だから、金正恩に「核を廃棄する」と言わせるかと、少しは期待したが「朝鮮半島の非核化」という表現でごまかされてしまった。
 最も重要な非核化の実現の目途について、具体的な目標を決めなければならない。例えば、核爆弾の原料を製造するウラン濃縮工場やプルトニウムができる5MWの黒鉛原子炉、弾道ミサイル製造工場の公表と会談後約1年には破壊するという目標などだ。そうでなければ、トランプ氏の在任期間(~2021年1月まで、あと2年半)では、北の非核化は実現せず、反対に、北を核保有国として認めざるを得なくなるだろう。
 一方、前回の板門店での南北会談では、韓国の文在寅大統領が、金正恩委員長の「叔父の張成沢を高射砲で殺害し、実兄の金正男を化学兵器VX剤で公衆の面前で無残に殺害した指導者」という印象を、「平和を求めている、ものわかりのいい、人間性溢れる戦略家の指導者」に作り変えている。
 板門店宣言の内容、文在寅政権の動きと韓国国民の反応を見ていると、韓国が北に呑みこまれそうで不気味な恐ろしさを感じる。
 相手国の戦略を読み取るには、その時々の目立つ事象に左右されてはいけない。譬えると、海の流れを見るには、表面のさざ波を見るのではなく、海の底を流れる海流を見なければならないのと同じだ。北の戦略や動向を読み取るには、今、表面に起きていることだけでなく、深層にある意図を読み取る必要がある。でなければ、北への対応を誤ってしまうのだ。北は、世界の民主的な国家のように、国際規約を長年守ってきた国ではない。嘘をつき、その時その場で、都合のよい言い逃れをしてきた国だ。
 もし、北が、「国を開放する、核物質を製造する施設を爆破する」などの大きな変化を見せれば信用できるが、そうでなければ信用することはできない。 
 金正恩の深層にある意図を読むために、北による「朝鮮半島の非核化(核の放棄と体制保証、)」及び「南北統一」の二面性を、別々に時には重ねて見なければならない。分析に際しては、①金正恩は本気で核を手放す意志があるのか、②「ならず者国家」から普通の国家に舵が切れるのか、③北朝鮮が言う「朝鮮半島の非核化」「体制保証」の狙いは何か、④北朝鮮による南北朝鮮統一戦略の狙いは何か、⑤今後の予想―を考察する。