ワシントンD.C.に赴任して早いもので3年が過ぎた。この間、数カ月に一度のペースで日本に出張し、その都度、D.C.での定点観測の結果を東京本社は勿論であるが、旧知の安全保障関係者に直接伝え、時には講演等を通じ、そして本季報にも2度ほど寄稿させてもらいつつ、ささやかながら日米間の認識ギャップの縮小に努めてきたと自負している。
今回は「米朝会談の結果を見て」から「米国の視点(Washington View)」でという執筆依頼があったので、米国における米朝首脳会談の評価について、3年間のD.C.での定点観測の結果、特に発足後500日を過ぎたトランプ政権の特殊な政治構造・政策決定プロセスの変遷を絡ませながら分析する。
批判的評価の多かった米朝首脳会談直後の状況
会談がシンガポールで行われたため、米国東部時間の6月12日の未明に起き、眠い目をこすりつつTVのトランプ大統領による記者会見のLive中継を観る事から分析を開始した。出社後、私の通常業務の一環として、12日朝の米国の主要メディア、議員、有識者の米朝首脳会談への評価をスタッフと一緒にまとめた。その結果は、「これまでの彼の最も政治的なパフォーマンス(ワシントンポスト紙)」、「トランプ大統領はシンガポールでhoodwink(騙された)様に見える(NYタイムス Op-Ed)」といった批判的な論調が多く、また、民主党議員からは「トランプ大統領は合意を急ぐあまり(北朝鮮の)現状を容認しながら、北朝鮮を米国のレベルまで引き上げた(The Hill 紙: Pelosi下院議長)」、「これはアメリカのリーダーシップの放棄(同:Schatz上院議員)」といった辛辣な批判が相次いだ。
一方、保守系からも「オバマがトランプのやり方をやったなら、共和党は弾劾を要求するだろう(保守系ジャーナリスト エリック・エリクソン)」、「合意は具体性を欠いており、北朝鮮をつけあがらせる(ケネディ上院議員)」という批判的な評価がなされていた。こうした批判の声に対して、トランプ大統領はツイッターで「1年前、過去にこんな仕事を出来なかった専門家や喋る頭共は(北朝鮮に)和解と平和を請い願い、『会談してください、戦争はしないで下さい』と訴えていた。私と金委員長が会談し、素晴らしい関係を築いた今、私を嫌っているまさに同じ連中が『会うべきではない、会うな』と叫んでいる(米東部時間12日21時14分)」と反論している。
日頃、情報ソースとしては余り信頼性のないトランプ大統領のツイッターであるが、このツイートはトランプ政権とメディアや有識者との関係をある意味正確に表している。