トランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長による史上初の米朝首脳会談が6 月12 日、シンガポールのカペラホテルで行われた。両首脳は、北朝鮮に対する「体制保証約束」と北朝鮮の「完全なる核放棄約束」を軸とする4 項目の共同声明に署名し、新たな関係をアピールした。この「共同声明」はその内容が貧弱なばかりか北朝鮮を利する深刻な問題点を内包している。
1、北朝鮮圧勝の米朝共同声明
1)北朝鮮の主張どおりの共同声明
米朝共同声明の記述構成は、1)新たな米朝関係の構築、即ち米国が、所謂「対北朝鮮敵視政策」を撤回(米韓合同軍事訓練の中断、対北戦略資産展開禁止、核の傘提供の禁止等)して、2)朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制の構築(終戦宣言、平和協定の締結)するようになれば、3)「朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む」となっている。即ち、先に「米朝関係の改善と朝鮮半島の平和協定」があり、次に「朝鮮半島の非核化」を実現することができるとする論理となっている。
これは会談の前日に北朝鮮の労働新聞が報道した論理構成そのままだ。これまでトランプ大統領が主張していた「先核放棄後体制保証」とは正反対の順序である。合意を焦ったトランプが北朝鮮の罠にハマったと見られても仕方がない表現形式となっている。
形式もさることながら特に深刻なのはその内容だ。今回会談の最重要事項とならなければならない北朝鮮のCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄:Complete Verifiable and Irreversible Dismantlement)) が、V とI の抜けたCD(完全な核放棄)とだけにされている。ポンペオ米国務長官が会談前日(11 日)夕の記者会見で、12 日の米朝首脳会談について、「CVID」が米国にとって「受け入れ可能な唯一の結果だ」と述べていたことを考えると、この声明はその内容においても北朝鮮に大幅譲歩した結果となっている。
2)核放棄を骨抜きにし、同盟国の安保と人権まで無視した合意文
トランプ大統領は、金正恩委員長からの会談要請を受諾してから3ヵ月の間、過去の過ちを繰り返さない厳格な非核化を会談の条件にするとしてきた。しかしシンガポール会談でトランプ大統領が手にしたものは、具体的な範囲も、工程も、時期もない「完全な非核化に向け取り組む」との「板門店宣言」の焼き直し文言だけだった。あれほど強調していたCVID は声明に盛り込まれなかった。トランプ氏は記者会見でその点を問われると「時間がなかった」と呆れるような返答をした。