中国海軍造船力の実態と展望

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防衛省防衛研究所主任研究官 下平拓哉

はじめに
 中国海軍の造船力は、かつてなく伸長している。米海軍大学中国海事研究所のエリクソン(Andrew S. Erickson)教授と洞察中国(China SignPost)共同設立者のコリンズ(Gabriel B. Collins)によれば、中国の造船所は急速な発展を遂げており、軍事面においては通常型潜水艦や水上艦艇の建造に力を入れ、このまま行けば2020年までに米国を抜いて軍艦の製造数で世界一になると指摘している。東シナ海や南シナ海からインド洋へと、インド太平洋地域において軍事的活動を拡大活発化する中国海軍の現在、そして将来を支えるものは、造船力に他ならない。
 本稿では、中国海軍の造船力の実態を明らかにし、その展望について分析する。まず、中国海軍の戦略を踏まえた作戦能力の方向性について整理する。次に、中国海軍艦艇を建造する主要造船所の特徴について分析した上で、2030年代の中国海軍艦隊について考察してみる。そして最後に、中国海軍造船力の課題と展望について明らかにする。
 1405年から1433年、明の鄭和(Zheng He)は、インド洋へ向けて7度の大航海を遂げた。その船団最大の船は、宝船と呼ばれ、全長136mもあったと言われている。今後、中国海軍がどの程度、海洋へ進出して行けるかは、正に中国海軍の造船力にかかっている。中国の造船がどのような方向へと進み、どのような艦艇を作っていくのか、注意深く分析する意義は大きい。

1 作戦能力の方向性
 2015年5月26日に発表された中国の国防白書『中国の軍事戦略』によれば、「4 軍事力量建設発展」において、中国海軍は、「近海防御と遠海防衛の結合型」へと転換し、「複合的・多機能・効率的な海上戦闘体系を構築する。戦略抑止、反撃、海上機動、海上統合作戦、包括的防御、包括的支援の能力を強化する。」と海軍力建設の方向性を明確に示している。
 活動領域の拡大と能力向上を示した中国の戦略変化は、正に中国海軍の艦艇能力の現代化を促進させることに迫るものであり、特に造船分野においては、武器、センサー、戦闘システムにおける速やかな現代化が求められた。
 まず艦艇の対水上戦能力については、2000年代以降、ロシアやウクライナの支援を得たリバース・エンジニアリングによって、YJ-12やYJ-18といった対艦巡航ミサイル(ASCM)技術の向上が見られる。YJ-12は、爆撃機H-6Gに搭載され、YJ-18は、最新のシャン級(SHANG, 093型)原子力潜水艦や中華イージスと呼ばれるルーヤンⅢ級(Luyang Ⅲ , 052D 型)駆逐艦に搭載されている。