「一帯一路」構想の実態
― 新冷戦時代始まる―

.

会長・政治評論家 屋山太郎

 トランプ米大統領が出現した途端に、世界中がギクシャクし出した印象があるが、トランプ氏立腹の原因は2つある。第1は、世界貿易が公正に行われていないこと。第2は、世界中の技術をかっぱらって中国が軍事大国になっていることである。中国の対米貿易黒字は年商3,700億ドル以上(2017年米側統計)、日本円にして40兆円という凄まじい額になっている。中国は米貿易赤字約100兆円の45%を占める。日本の対米黒字は18%、独が17%、あとはカナダ、メキシコが占める。
 米国が世界一の金持ちとして鷹揚に振る舞える状態なら、トランプ氏は大統領として出現しなかったろう。対中軍事力の面でも経済面でも中国に後れをとっているのではないかという不安感に陥っているのを、米国人はひしひしと感じていたに違いない。アメリカのTVが米国人が既に住んでいる戸建ての一軒の家から米国製以外の部品を全部剥がしてみる番組をやったところ、戸建ての家が屋根から土台まで、家具も含めて殆ど剥がされてしまったという。アメリカ人は米国産のものが何もないと分かってショックを受けた。気が付いたら中国に根こそぎやられている事実を目撃したわけだ。
 あの強国アメリカが、何故丸裸になったのか。100兆円に迫る赤字が何故出たのか。中国とその他の国とは赤字の質が違う。

中国式公共事業
 アメリカの産業が徹底的に中国に侵食されるようになった動機は、習近平氏が中央委軍事委員長、主席に就任した2013年からだろう。習氏は世界中に中国式公共事業を振り撒く「一帯一路」と「製造2025」の国家目標を掲げた。一帯一路の事業を補完するものとして、中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)も設立した。この国家目標が揺らぐことのないよう18年、憲法を改正して首席の任期を廃止。独裁を可能にした。国家目標は絶対に変えないという中国の意志を伝える憲法改正だ。
 「製造2025」というのは、西暦2025年までにITを含めた製造業で世界の一流国に肩を並べるというものである。20年ほど前までの中国は中進国程度だった。1979年に日本の対中ODAがスタートした時の政府開発援助は、港湾や空港、鉄道の建設、上下水道といったインフラ整備が中心だった。低金利で円を貸し事業規模は3兆3,165億円に達した。とっくに事業は終わっているかと思ったら、外務省によると16年は無償で98万ドル(約1億1千万円、技術協力で600万ドル(約6億6千万円)を供与した。17年度、18年度も同水準の援助を行っているという。