構想発表から5年:正体が見えてきた一帯一路構想

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政策提言委員・元海自自衛艦隊司令官(元海将) 香田洋二

はじめに:一帯一路構想の概要
 2013年と14年に習近平中国国家主席(以下「習主席」)が提唱した一帯一路構想は、一義的には中国内陸部から中央アジアを経由して陸路で欧州と結ぶ「シルクロード経済ベルト」(一帯)及び中国沿岸部から東南アジア、インド洋北部、アラビア半島周辺海域を経てアフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」(一路)の整備を通じた一大経済圏(65ヵ国、44億人)の構築を意味する。その狙いは、中国主導による陸上ルートである一帯の開発を通じて「地理的に中国と欧州の中間に位置し、開発の遅れた中央アジア諸国の経済力と生活水準の底上げ」を図るとともに、海上経路である一路の開発と中国・ASEAN自由貿易協定を発展させることにより、一帯一路の経路に存在する各国の国力の進展及び関係国間の良好な関係を構築して中国と共存共栄を目指すものとされる。そのような体制が完成した暁には、一帯一路の接続先である欧州及びアフリカ東部(当面)並びに各経路周辺に所在する中央アジア諸国、東南アジア各国及びインド洋島嶼諸国のインフラストラクチャー(以下「インフラ」)整備の促進を始め各国間の貿易促進や資金循環が活性化され、究極の目標としての中国を含む全関係国の国富の増進が挙げられている。
 別の言い方をすれば、一帯一路とは、今後、数十年かけて、これらの地域や海域の道路や港湾、発電所、パイプライン、通信設備などに対するインフラ投資を起爆剤として、製造(二次産業)、金融、電子商取引、貿易、テクノロジー(サービス産業等の三次産業)などに対する各種の投資を促進して当該経済圏全体の産業活性化を図ることを目的とした構想である。
 更に異なる観点からは、本構想に参加する大多数の開発途上国が、現在最も必要としている国内開発のためのインフラ整備を実現し、中国は過剰となった国内生産力の放出先(中国製々品の海外市場)と自国の生産活動を支える原材料の安定的確保を可能とする、所謂「敗者のない、全員が勝利者」を意味する「Win(各国)-Win(中国)」の関係を作り出すものとも言える。
 資金面では、中国は本構想を実現するための資金供給の要としてのアジア・インフラ投資銀行(Asia Infrastructure Investment Bank: AIIB)の設立方針を明確にして迅速に行動して各国の同意を取り付けた。その結果、10ヵ国以上の国内手続完了としていた設立協定は2015年後期には発効条件を満たし、AIIBは同年12月25日に発足、2016年1月16日の設立総会開催にこぎ着けた。