はじめに
一帯一路構想(以下、一帯一路と記述)は、習近平国家主席が2013年に発表した経済圏構想であり、中国から欧州に至る海の「21世紀海上シルクロード」と陸の「シルクロード経済ベルト」から構成されるグローバルなインフラ回廊(現代版シルクロード)構想である。関係諸国65ヵ国、世界人口の60%をカバーする壮大な構想だ。
欧州諸国は当初、一帯一路 やアジアインフラ投資銀行(AIIB)に積極的に参加した。しかし、一帯一路が中国の覇権戦略の一環であることを理解するとともに、当初期待していた経済的メリットがないことに気付き、一定の距離を取り始めている。
一方、日本や米国は当初から一帯一路に距離を置いてきたが、最近、一帯一路に対抗した「自由で開かれたインド太平洋戦略」に基づいて、この地域のインフラ整備に必要なファンドの創設を模索し始めている。
これら一帯一路を巡る動きの背景には、明らかに米中の覇権争いがある。習近平主席は、一帯一路により米国に対抗する経済圏や影響圏の構築を推進してきたために、引くに引けない状況になっている。しかし、一帯一路が徐々に四面楚歌の状況になりつつあるという声は多い。その大きな原因は、関係諸国の国益を無視した中国の自己中心的で強引な一帯一路の推進にあり、多くの国々の不満や不信感を惹起していることにある。
本稿においては、壮大な一帯一路構想について、まず「債務帝国主義(Debt Imperialism)」の視点で概説し、その後で「米中覇権争い」をキーワードとして、「米中の覇権争いにおける中国の視点」及び「米中の覇権争いにおける米国の視点」から考察したいと思う。尚、中国の債務帝国主義とは、「中国が発展途上国にインフラ整備等により過大な債務を負わせ、支払い不能にして該当国をコントロール下に置こうとする考え」のこと。
1. 一帯一路の現状と「債務帝国主義」
中国にとっての一帯一路
一帯一路は、実に壮大な構想であり、中国の構想力はある一面では素晴らしい。それでは、一帯一路の本質は何か?一帯一路は、中国の覇権戦略を実現するための一手段であり、中国の影響圏を世界中に拡大するための手段なのだ。
中国の覇権戦略を実現するための一手段としての一帯一路は以下のような特徴を持っている。
① 米国主導の世界秩序に対抗し、米国の影響力が及ばない独自の影響圏を構築する狙いがある。つまり、大陸ルートと海洋ルートの両面から、米国の影響力が及ばない影響圏を拡大しようとしている。これは特に、大陸ルートについて言える。
海洋ルートについては、スリランカ、パキスタン、ジブチなどの港湾施設の使用権を確保することを重視している。