「文明の衝突」:衝突する米中の価値観
習近平の「中国の夢」とトランプの「アメリカ・ファースト」は文明の衝突である。サミュエル・ハンチントンは1996年の『The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order』(文明化の衝突と世界秩序の再創造)で、冷戦後は文明と文明の対立が世界秩序の軸となり、異文明が接する断層線(フォルト・ライン)で紛争が起きると指摘した。米国は、2001年9月11日の同時多発テロ以降、イスラム原理主義との戦争をイラクやアフガニスタンで繰り広げてきたが、その間、資本主義・自由主義の恩恵を最大限に利用しつつ、ひたすら国力の増強に邁進してきた異文明・中国の本質と危険性を認知できずにいた。
しかしながら、今年1月、トランプ政権で初となる中国のWTO(世界貿易機関)規則の順守状況に関する年次報告書では、「中国で開かれた、市場志向型の貿易体制の導入が進んでいない点において、米国が中国のWTO加盟を支持したことは明らかに誤りだった」と指摘し、経済成長が中国の民主化・自由市場化を促すという対中政策の前提が幻想だったことを認めた。
また、昨年12月に公表された国家安全保障戦略(NSS)では、“China and Russia want to shape a world antithetical to U.S. values and interests. China seeks to displace the United States in the Indo-Pacific region, expand the reaches of its state-driven economic model, and reorder the region in its favor” と明記し、中露が米国の価値や利益と反する世界を築こうとしており、中国はインド太平洋地域において地域秩序を自分たちに都合良く作り変えようとしているとの認識を示した。中国の一帯一路(BRI:Belt and Road Initiative)やA2/AD(接近阻止/領域拒否)、対抗する米国のインド太平洋戦略(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)やCost Imposing戦略、更には激しさを増す貿易戦争もグローバル化した世界での米中文明化戦争の一局面に過ぎず、個別の視点に捉われていては大国間競争の本質を見誤ることになる。メディアは個別の事象を断片的に報道するのみで、米中衝突の本質を理解するには全く不十分だが、公開資料等を合わせて読み解けば、その本質が見えてくる。
「中国の夢」の本質
習近平は2012年11月、中国共産党総書記に就任すると中国の夢として「中華民族の偉大なる復興」を発表、その後「中国の夢」は中国共産党第18回全国代表大会(全人代)で中国共産党の統治理念、2017年10月の第19回全人代では党規約に盛り込まれている。