我が国に対するインテリジェンス活動にどう対応するのか

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政策提言委員・元公安調査庁金沢事務所長 藤谷昌敏

はしがき
 平成28年5月頃、私の友人のA氏から興味深い話を聞いた。A氏はロボット製造会社の社長で、私が公安調査庁時代からの友人である。暫くぶりにA氏に会うと、A氏は、「仕事で外国人に会った」「すごく良い人だった」「疑いは全くなかった」などと息せき切ったように話し始めた。A氏の話はこうである。

 私(A 氏)が平成27年末頃に都内で開かれたロボット展に参加した際、懇親会の席上で金髪の40歳ぐらいの外国人から声をかけられた。その外国人は、笑顔を絶やさず、温厚そうな人物で、名刺を交換すると、ロシア通商代表部のワシーリー・ベレンコフ(仮名)と名乗った。ワシーリーとは、その後複数回にわたり会食したが、親交が深まるとワシーリーは、サイバーダイン社(茨城県つくば市)やホンダ社(東京都港区)の二足歩行ロボットに強い興味を示し、詳細なスペックを教えて欲しいと依頼してきた。私は詳細なスペックを知り得る立場にはないので、インターネットに掲載されている資料を渡す程度で済ましていた。そのうちワシーリーは、「プーチン大統領は偉大な政治家で、ロシアは今最も安定した大国である。しかし、豊富な資源輸出大国であることに捉われ、最先端技術は出遅れている。プーチン大統領は特にロボット技術が米中に遅れをとっていることを大変気にかけている。ロシアに協力してくれる日本のロボット関係企業は大企業から中小企業までたくさんある。あなたにはロボットを調達して、ロシアに輸出することに協力してくれないか」と依頼してきた。私は「ロボットをロシアに輸出することは経産省が許可しないだろう」と答えて、その申し入れを拒否した。すると、以後、連絡は途絶えてしまった。

 この話を聞いて驚いた私は、A氏に対して「それは先端科学技術流出を狙ったロシアのスパイに違いない。ただちに警察に通報した方が良い」と助言したところ、A氏は「人の好い外国人という感じでロシアのスパイには見えなかったけどな」と怪訝な顔をしていた。その後、暫くしてA氏から「ワシーリーはロシアのGRUに所属するスパイだったらしい。日本にはもういないそうだ」との報告を受けた。 
 戦後、我が国では、北朝鮮、中国、ロシアなどによる情報漏洩事件や拉致事件などの重大事件が多発していたが、我が国政府は何ら有効な対策も打ち出すことができなかった。それでも、平成26年12月に至って、やっと「特定秘密の保護に関する法律」(以降、特定秘密保護法)が施行された。