秦郁彦著『慰安婦と戦場の性』英訳
対外発信助成会出版報告

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JFSS顧問・東京大学名誉教授 平川祐弘

 日本戦略研究フォーラム(JFSS)の対外発信助成会は民間有志から醵金を募り、二〇一八年九月、秦郁彦著『慰安婦と戦場の性』の英訳本をアメリカの大手出版社ハミルトン・ブックスからIkuhiko Hata, Comfort Women and Sex in the Battle Zone, Hamilton Books として出すことを得た。そこで一、英訳刊行に至る経緯、二、この英訳出版の意義、三、日本の対外発信が抱えている問題点について、対外発信助成会の音頭取りをした者として報告したい。

『朝日新聞』の謝罪報道
 問題は遠くは慰安婦問題について意図的な誤報が流され続けて来たことだが、近くは二〇一四年八月五日、『朝日新聞』が慰安婦問題について自社の過去の報道を否定する自己検証を出したことである。韓国の無垢の女性を強制連行し、性奴隷とした、それには日本軍が関与したという『朝日』が流布した報道は正しくなかった、ということで、虚偽報道の基となった吉田清治談話は詐話であった、虚言症の吉田の作り話であった、ということである。その結果はっきりしたことは、韓国の慰安婦は、日本兵相手もアメリカ兵相手も、性奴隷ではなく、その置かれていた状況は気の毒であったが、日本兵やアメリカ兵相手に身を売った日本人女性とも、またアメリカ兵や韓国兵に身を売ったベトナム女性とも、いずれも本質的に同じだったということである。
 私は八十七歳、敗戦後ハチ公広場が夜になると、当時はパンパンと呼ばれた女たちでいっぱいだった光景を記憶している。その中にはアメリカ兵相手の慰安婦もまじっていた。しかし戦後の生活苦のために夜の女になった者を非難する気持は私にはなかった。
 『朝日』の自己検証の記事が出た時、『文藝春秋』に依頼されて私は《『朝日』の正義はなぜいつも軽薄なのか》を十月号に執筆し、『朝日』や吉田清治が世界にまき散らした誤報誤解をとくためにどう対処すればよいかも具体案を提案した。
 『文藝春秋』にはこう書いた。「渋谷には占領下、アメリカ兵相手の女性が彼ら(兵士)に送る手紙を(私たち学生アルバイトが)代書した恋文横町の記念碑はある」。だが隣国と違ってその種の女性は過去を恥じて「私は慰安婦だった」と名乗り出ることをこの国ではしない。私はその慎みを良しとする者だ。当然、「そうした女性たちの像は東京の米国大使館の前にない。私はそんな日本に生まれて、まあよかった、と感じている。」そして『文藝春秋』にこう書いた。「……世界各地に韓国人慰安婦像を建てようとする人たちの主張は、女性の人権保護の名を借りた反日運動である。かれらの主張がもし普遍的に通用し得るものであるなら、その主張は日本でも歓迎されるはずである。