安全保障面からの 日本の台湾支援策について

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政策提言委員・元海自潜水艦隊司令官(元海将) 矢野一樹

 ご紹介いただきました矢野です。
 私は2016年に、中国政経懇談会の一員として訪中し、またその2ヵ月後には台湾に招待されて訪台し、極めて短期間の間に2国を周り、それぞれの国で現役及び退役の軍人と話をすることも出来ましたので、その辺りも踏まえながら、論を進めていきたいと考えています。

中国の台頭
 最近よく「中国の核心的利益」という言葉を聞くと思いますが、彼らの定義によると、「核心的利益」とは「国家の安全保障上譲歩できない事柄」とされています。この内容は①国家主権と領土保全 ②国家の基本制度(共産党による一党独裁政党の安全と保持)③経済発展―の3つに大別できます。
 その中の領土問題として、中国は当初、台湾、チベット、東トルキスタンの3つを核心的利益として主張していました。ところが、2010年に東シナ海、2013年には尖閣諸島も核心的利益だと主張し、現在5つの係争を抱えています。
 ここで問題なのは、中国が「核心的利益」と言えば、言った瞬間から、それまでの関係各国の歴史や立場は一切無視して、一方的に「中国の安全保障上譲歩できない事柄」とされる事です。現在中国では、国内的には琉球列島も中国領土だと言い始めています。そうすると今後、「南西諸島は中国の核心的利益」だと、ある日突然言い出さないとも限りません。
 また、台湾問題については、同じ核心的利益と言っても中国の悲願であり、他の核心的利益とは一線を画す位置にあることは言うまでもありません。中国にとって「一つの中国」は、譲ることのできない大原則であるため、中国は台湾窮乏化政策を推進し、台湾と外交関係にある小国に対して断交圧力を掛け、国際機関からの台湾締め出しを次々と推し進めています。また、台湾周辺海域で軍事活動を活発化させ、台湾に対する国際的孤立と軍事的圧力を増大させているのが現状です。
 このような行動を普通の国家では覇権主義と呼ぶと私は認識していますが、中国は、国際的には中国が如何に発展しても永遠に覇を唱えない、中国の軍備拡張は中国を刺激する米国が存在するためだと言っています。つまり彼らは、悪いのは全て他人であり中国は全く悪くないという子供同士でも通用しない理屈を国際的に展開しているのです。2016年に中国政経懇談会の一員として訪中した際にも、会見した要人が悉く最初にこの文句を唱えていました。
 ではこの言動の下で中国は何をしてきたか。中国の国防費は1989年以降、ほぼ毎年2桁で伸びており、ここ数年は経済停滞により7~8%まで低下したものの、実に過去30年でほぼ50倍、2018年度は18兆4,500億円にまで増加しています。