2019年に欧州を襲う激震とその余波

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 今、欧州を激震が襲っている。62年前に締結されたローマ条約によって欧州経済共同体(EEC)が発足して以来、欧州の統合にこれほど強い遠心力が働いたことはない。欧州連合(EU)の分解を懸念する声すらある。この2019年、欧州、そして「欧州統合」はどこに向かうのか。本稿では、欧州在住11年の個人的経験を踏まえつつ、その現状と将来を考えてみたい。

英国のEU離脱
 英国政治がEU離脱問題をめぐって大混乱に陥っている。メイ政権は昨年11月14日の閣議において事務折衝で取りまとめた英・EUの離脱協定案を承認したが、これに反対して数名の閣僚が辞任した。その11日後、11月25日にブリュッセルで開催されたEUの臨時首脳会議ではこの協定案と、英国がEUを離脱した後の通商のあり方など将来関係の大枠を決める「政治宣言案」を正式決定した。メイ政権としてはこの協定案で議会承認を取り付け、今年3月の離脱期限を乗り切り、EUとの自由貿易関係(関税同盟)を維持したまま来年末までの移行期間(1~2年の延長可)に入りたいところだったが、12月11日に予定された英国議会での採決は否決が確実視される中で見送られ、その目論見は風前の灯の状態にある。メイ政権としては、現在の協定案では採択の見通しが立たないとあれば、EUと再交渉して離脱協定の改正案を議会に再上程する道しか残されていない。この点については、12月12日にメイ首相が保守党内での信任投票で何とか信任を勝ち取ったものの、翌13日からのEU首脳会議では事前に予想された通り、EU側が(何らかの気休めになるような声明を発出することはあっても)協定テキスト自体の実質的な事項については再交渉に応じない姿勢を示しており、時間的制約も考慮すれば、この選択が奏功する可能性はないと見るべきだろう。
 もう1つの選択肢は、EU側に離脱時期の先延ばし(3ヵ月程度)を求め、再交渉の時間をかせぐ案だが、短期間に27ヵ国の同意を得るのは困難で、非現実的と見る専門家が多い。議会審議のタイムリミットは1月21日であり、上述の通り、メイ首相がEU離脱協定(改正案)の議会採決を求めても否決される可能性が大きく、今や、「合意なし離脱」はほぼ不可避となった。ビジネスの現場での混乱は必至であり、これから英国経済は大きな試練に直面することになる。
 協定案採択の見通しが立たなくなったことでメイ政権が受けたダメージも大きい。本稿の脱稿時点(昨年12月17日)では予想が難しいが、この1月にEU離脱協定(改正案)が議会で否決され、かつ首相に対する不信任決議案が賛成多数で採択される場合は、辞任するか解散総選挙に打って出るかの選択に直面する。