「憲法改正」とその先― 何のための「9条の2」か?

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政策提言委員・元海自横須賀地方総監(元海将) 堂下哲郎

はじめに
 「半世紀ぶりに日本で五輪が開催される2020年を、未来を見据えながら日本が新たに生まれ変わる大きなきっかけにすべきだ」「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」。これは安倍首相が憲法施行70周年に際して語った言葉である(2017年5月3日読売新聞インタビュー)。
 この発言を踏まえ、自民党は2018年3月の党大会において、9条に関しては、戦力の不保持を定める「9条2項」を維持したまま「9条の2」として自衛隊の根拠を定めるという憲法改正案を報告した。本来ならば、9条全体に関する「本質論」を展開して条文を見直すのがもっとも望ましいが、厳しい国内情勢を踏まえ、「本質論」にこだわることにより長期にわたって合憲違憲論が残るのであれば、これが「実現可能なベストの案」(高村正彦自民党副総裁)という考え方である。

何の変化もないのか
 そもそも安倍政権の目指す憲法改正は、「憲法学者の約2 割しか合憲と言い切る人がいない。命を賭して任務を遂行している者の正当性を明文化・明確化することは、改憲の十分な理由になる。」(2018年2月6日衆院予算委員会)との首相答弁の通り違憲論の払拭が主な目的である。「本質論」とは大きな開きがあるものの、長年の懸案の一部でも解決されるのならば、それはそれで大きな意味のあることである。
 しかし、一旦改憲論議が本格的に始まれば、戦力の不保持を定める9条2項が残る以上、自衛隊の装備や兵力に係る戦力該当性の論点に焦点が当たるのは確実で、自衛隊違憲論が完全に払拭されるのか懸念される。
 また、自民党が言うように「自衛隊の任務や権限に変更が生じることはない」というのであれば、改憲の必要性そのものに疑問が呈されることになりかねない。事実、公明党の山口代表は2018年11月の講演で「(安全保障関連法の整備で)日本を守り、世界と協力する制度はしっかりと整った。大多数の国民の皆さんは自衛隊は必要だと認めている」と指摘し、9条の改正に改めて慎重な立場を示している。

国民、隊員にとっての意義を語れ
 理想論とは言えない「9条の2」が、違憲の立場をとる憲法学者や国民にのみ向けられるのならば議論の道筋は困難なものとなり、不毛な「神学論争」ともなりかねない。改憲論議を少しでも建設的に進めるには、自衛隊設置の合憲性が明確にされることによる意義を多くの国民に肯定的に評価してもらう必要がある。そのような意義として、「隊員の士気向上に資する」ということが考えられる。