北朝鮮軍によるソウル無血占領の危機が近づいている
―南北融和の隠された罠と北による南侵戦略の変化―

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政策提言委員・軍事/情報戦略研究所長 西村金一

 北朝鮮は現在も、金日成主席時代から国家目標であった朝鮮半島の赤化統一の実現を追及している。北朝鮮は今年になって、韓国の南北融和政策を上手く利用して、赤化統一の動きを進めているようだ。特に、米国に戦争終結宣言を認めさせ、その勢いで米韓を離間させようとしている。南北間では、板門店宣言・平壌共同宣言が発せられ、これらを具体的に履行するための軍事分野合意書が決定された。その内容には、北朝鮮が韓国ソウルを無血占領して赤化統一するための罠が隠されているようだ。
 隠された罠、特に北朝鮮の狙いと新たな南侵軍事戦略を解明するために、以下の事項を詳細に分析する。
 ①戦争終結宣言や平和協定締結の狙い
 ② 南北間の2つの宣言と軍事分野合意事項
 ③北朝鮮が保有する軍事力
 ④南北融和政策と北朝鮮南侵作戦戦略

 更に、前述の軍事的な分析を、以下の2つの事項を踏まえて読み解いていきたい。
 1つは、北朝鮮の外交交渉や国家戦略
と孫子の兵法の関係はどうなのか。孫子の兵法に基づいて行動しているのではないかということだ。中国では、『孫子兵法教程』(軍事科学院)が軍事科学院修士研究員の教材として使用されている。北朝鮮の南北会談や米朝会談、最近の軍事動向、国営メディアの発表を見ていると、孫子の兵法にあるいくつかの兵法を用いているとみられる。特に、金正恩委員長の軍事の家庭教師であった金英哲大将が、南北会談や米朝会談に携わるようになってからその傾向が強い。
 2つ目は、戦術的思考法により、北朝鮮の作戦戦術を解明したい。地の利、即ち地域・地形(地域見積)の特色、特に敵(今回は北朝鮮)と我(韓国)に及ぼす影響や敵の接近経路を読む。敵の兵力と可能行動、特に敵と我の強点と弱点、敵がどんな戦法を採用するかを判断する。この際、朝鮮半島の地図上で敵と我を戦わせて、戦理に合った北朝鮮軍の作戦戦術を案出する。
 この論文では、軍事専門的な内容や解説が多いので、努めて要図を使用して解説を加える。

1.平和を求めるポーズで韓国人を油断させ、米韓分断を狙う
 板門店宣言では、①南北自主統一を早める ②今年中に終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換する ③朝鮮半島の非核化に向け努力する―という3つの合意があった。表面上は、南北が自ら平和的統一を行い、戦争のない朝鮮半島にしようという内容だ。更に、軍事的緊張と衝突を避けるために、一切の敵対行為を全面中止するものとされている。