我が国に対するインテリジェンス活動 にどう対応するのか

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政策提言委員・元公安調査庁金沢事務所長 藤谷昌敏

 第1章では、まずインテリジェンスの定義について、「国益のために収集、分析、評価された外交・安全保障政策における判断のための情報である」とし、その究極の目的は、「他国の弱点や劣位の部分を暴き、反対に自国の弱点や劣位の部分を隠すことで、自国が優位に立つことである」と説いた。
 次に我が国を取り巻く情勢について、日本の重大な脅威となっている国として北朝鮮、中国、ロシアを挙げ、各国の対日インテリジェンスについて触れた。日本のインテリジェンスの歴史では、明石元次郎陸軍大佐の対露謀略戦や関東軍情報部(ハルピン機関)の対ソ連情報活動、藤原機関・南機関の情報謀略活動、その背景となった陸軍中野学校の特殊性について述べた。そして最後に我が国の情報コミュニティに対する評価について解説した(本誌2018.Vol.78,pp.111-116)。
 第2章では、インテリジェンスの分類について詳述する。

第2章 インテリジェンスの分類
 インテリジェンスは、大きく分けて情報収集活動、秘密工作、防諜活動の3分野に分類できる。そして主に情報収集活動と秘密工作を担うのが対外情報機関であり、敵国の情報収集活動を妨害するのが防諜機関である。両機関は国家の外交や安全保障などの重要な政策決定の際、敵対国の情報を入手して分析すると同時に敵国の情報機関の情報ネットワークを破壊する、謂わば矛と盾のように補完し合う関係である。また、単なる情報収集活動に留まらず、他国の政治勢力への影響力行使などの目的のため、ハニートラップ、暗殺、クーデターなどを行うことを「秘密工作」という。これは所謂「謀略活動」であり、国際社会の世論を自国寄りに誘導したり、敵国政府の判断を迷わせるために偽情報を流す「宣伝工作」も含まれる。
 インテリジェンスは古くから世界各国で行われ、地政学的事情や国際関係、時代の変遷などによって多少の相違はあるものの、手法や目的などに大きな変化は見られなかった。しかし、20世紀に入ると、インテリジェンスの目的や内容は大きく変化せざるを得なくなり、情報組織の肥大化と複雑化をもたらした。
 その理由は第1に、「国際社会の多様化に伴う情報対象の拡大」である。米ソ冷戦や国際テロを背景に主要国は、情報機関の主要任務を外交・軍事情報の収集に留まらず、政治、経済、社会、科学技術情報など広範囲な情報収集の必要性を認め、情報組織の拡大に着手した。米国を例に挙げれば、米国情報機関は2001年の9・11事件を契機に拡大を続け、最盛期の2010年には予算801億ドルを計上して(軍情報部を除く)、中央情報局(CIA)など17組織、10万人を擁する世界トップクラスの情報国家となった。