皇室を支える国民の務め

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評論家 江崎道朗

●国民の幸福を祈る皇室の伝統
 「我々は、国民の側が何もしなくても皇室は続くと誤解してきたのではなかったのか」
 天皇陛下が平成28(2016)年8月8日、テレビを通じて発表された「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」(以下、「おことば」と略)を拝聴して、まず思ったのはこのことでした。
 冒頭、陛下はこう仰せになっています。

《戦後70年という大きな節目を過ぎ、2年後には、平成30年を迎えます。
 私も80を越え、体力の面などから様々な制約を覚えることもあり、ここ数年、天皇としての自らの歩みを振り返るとともに、この先の自分の在り方や務めにつき、思いを致すようになりました。
 本日は、社会の高齢化が進む中、天皇もまた高齢となった場合、どのような在り方が望ましいか、天皇という立場上、現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら、私が個人として、これまでに考えて来たことを話したいと思います。》

 実は、現行憲法の第4条は「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」と規定しています。天皇が皇室制度について言及することも「国政に関わる」ことなのでダメだと主張する学者もいます。政治家も国民も、皇室制度について、あれこれと発言することは自由なのに、天皇陛下と皇族だけは自らの皇室制度について発言してはいけないというのです。
 このため、天皇陛下は皇室制度について発言することを控えてこられたわけですが、今回、敢えて《個人として》意見を公表されたわけです。これは極めて異例のことです。そのことの意味を私たち国民の側はもっと深く受け止めるべきだと思うのです。
 今から70数年前、日本は戦争に敗北し、アメリカを中心とした占領軍が日本を占領し、日本の政治、教育、社会、家族制度などを変えました。憲法も変えさせられ、皇室については第1条で「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」と規定されました。
 問題になったのは、その「象徴」の意味です。
 「象徴」とは、外国の国王と同じことなのか、そうでないのか、憲法学者の間で意見が分かれ、未だに一致していません。しかも「天皇はめくら判を押すロボットだ」とする東京大学の宮澤俊義教授の学説が憲法学の主流になってしまっています。
 憲法に「日本国民統合の象徴」と規定された以上、日本国民を統合するために天皇は何らかの役割を果たすべきですが、具体的に何をすれば国民を統合することになるのか、明確な指針は憲法に明記されませんでした。