日本と台湾の30年
─東日本大震災をきっかけに新局面を迎えた日台関係―

.

「日本李登輝友の会」事務局長 柚原正敬

台湾が日本へ安全保障対話を初めて要請
 本年3月2日付の産経新聞1面のトップ記事は、台湾の蔡英文総統へのインタビューを伝える衝撃的な内容だった。日本と国交のない台湾のことが1面で報じられることは珍しいが、トップ記事は更に珍しい。
 この記事は、蔡氏が日本政府に対して安全保障問題やサイバー攻撃に関する対話を求める意向を表明したことを伝える内容で、同紙は「蔡氏が日本との直接対話の意向を明言したのは初めて」と報じている。
 日台間の安全保障に関わる問題はとても重要なテーマだ。中国の軍事力を背景とした覇権的な台頭は、アジア太平洋地域における平和と安定に対する最大の脅威であり、特に台湾が中国の支配下に置かれることは、東シナ海、南シナ海及び西太平洋、即ち日本周辺海域が中国の影響下に入ることを意味し、我が国も深刻な安全保障上の危機に直面するという認識の下、日本李登輝友の会は2012(平成24)年に「政策提言」として「集団的自衛権に関する現行憲法解釈を修正せよ」を発表して以降、翌2013年には「我が国の外交・安全保障政策推進のため『日台関係基本法』を早急に制定せよ」を発表し、その後も毎年、日台関係の強化を目的とする「政策提言」を発表している。
 これらの「政策提言」はいずれも、台湾が中国の外洋への展開を扼する絶好の場所にあり、地政学的に極めて重要な位置を占めているという認識に基づいている。
 そこで、改めて蔡英文氏のインタビュー発言を見てみたい。
 蔡氏は台湾の重要性について、私どもと同じく「台湾の地理的な位置は、ちょうど中国が太平洋に出入りする要衝」という地政学的認識の下、「われわれは多くの面で日本と同じ安全保障上の脅威に直面している。特にわれわれが属している東アジア地域には多くの安全保障上の脅威の発生源があり、それが台湾、そして同時に日本に衝撃を与えるだろう。だから、台湾と日本の間の安全保障は実務上の協力を極めて必要としている」と強調する。
 その実務上の協力関係を作り出すため「日本側が法律上の障害を克服し、われわれと相互協力や、有効な情報交換の機会を持つことができるのを期待している」と述べる。
 この発言は、日本は国交がない台湾との関係を「非政府間の実務関係」と位置付け、安倍晋三総理もこれまでの政府発言より踏み込み「我が国との間で緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナー」(平成28年5月)と表明しているものの、その実、日台間の実務関係を保障する法的裏付けはなにもない。