中国の太平洋島嶼地域への関与と日本の対応

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防衛省防衛研究所主任研究官 下平拓哉

はじめに
 太平洋に散在する多くの島々からなる太平洋島嶼地域は、長きに亘り歴史の表舞台から忘れられた存在であった。しかしながら、2010年代に入ると、政治や経済を含め様々なレベルでの交流が盛んとなってきた。
 2018年5月18~19日、福島県いわき市において、日本と太平洋島嶼国14ヵ国を含む19ヵ国・地域の首脳等が参加して、第8回太平洋・島サミット(The Eighth Pacific Islands Leaders Meeting:PALM8)が開催された。日本からは、「自由で開かれたインド太平洋戦略」に基づいて、同地域の安定と繁栄のため、関与の強化を表明し、同戦略の理念共有と関与強化が歓迎された。
 本稿では、太平洋島嶼地域の戦略的重要性を踏まえた上で、太平洋島嶼国地域の安全保障枠組みについて整理し、中国と太平洋島嶼国との関係について分析することを通じて、太平洋・島サミットの意義について明らかにする。

1. 太平洋島嶼地域の戦略的重要性
 太平洋島嶼地域の戦略的重要性については、同地域に関与を進めている主要国がそれぞれほぼ共通の認識を有している。即ち、安全保障上及び経済上の重要性、そして国際的な影響である。
 日本は、太平洋島嶼地域について、①歴史的に親日的な国家群 ②国際社会における日本のパートナー ③資源(水産・鉱物・エネルギー等)の重要な供給地、海上輸送路と認識している。また、2018年12月18日に発表された新たな『防衛計画の大綱』においても、多角的・多層的な安全保障協力の戦略的推進の一環として同地域を採り上げ、「太平洋島嶼国との間では、自衛隊の部隊による寄港・寄航を行うとともに、各自衛隊の能力・特性を活かした交流や協力を推進する。」と、防衛協力・交流の推進すべき重要地域として、太平洋島嶼地域が初めて明記された。
 米国については、米議会の超党派諮問機関である米中経済安全保障再考委員会(USC)によれば、①国防上の利益 ②非常に大きな国際的影響 ③台湾支持を挙げている。
 第1に、アメリカン・サモア、北マリアナ諸島、グアムは米国領である他、パラオ、マーシャル、ミクロネシアとは自由連合盟約(Compact of Free Association: COFA)を結び、国防権限が米国に委ねられていること。第2に、たとえ小国であっても国連総会における投票権があること。第3に、インド太平洋地域における米国の主要なパートナー国である台湾と国交を有する国が太平洋島嶼国14国中、6ヵ国(キリバス、ソロモン、ツバル、ナウル、パラオ、マーシャル)が集中していること。また、『国家安全保障戦略』においては、同地域が景気変動や自然災害に脆弱であることを踏まえ、豪州とニュージーランドとともに協力関係を強化していく方針が示されている。