我が国の危機の本質

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政策提言委員・高知大学名誉教授 福地 惇

Ⅰ「陰謀史観」について
 本論は、「我が国の危機の本質」を考察する。この世界は天才的陰謀家集団に思うがままに翻弄されて動かされているという大前提から論を進めるものである。価値観の問題も難儀であるが、歴史の真実を知ることも実に難しい。何故なら、知られている歴史の殆どは勝者によって上手に創作された勝者正当化の歴史だからである。勝者の歴史、これは洋の東西を問わず一般的にそうなのであるが、現在只今においては更なる困難な問題がある。少なくとも18世紀以降から21世紀前半期の今日に至る間、世界の勝者は誰かという問題である。
 間違いなく、世界征服を大目的としている匿名の集団が存在するのだ。所謂「陰の世界支配権力」(本論ではこの勢力を「彼ら」と呼称する)である。この定かには見えない勢力は、世界中の主要国を諸戦争へと誘導して、例えばナポレオン戦争、普仏戦争、日清・日露戦争、欧州大戦(第一次世界大戦)、シナ事変そして第二次世界大戦(英米とナチスの戦争が欧米方面の戦争で、東アジアでは日米戦争及び日支戦争(和名は大東亜戦争))を創出して諸国家を戦わせ、背後から双方を操縦して段々と「彼ら」の権力を世界中に強化していったのである。
 「彼ら」は勿論様々な戦略・戦術を駆使するが、その代表は「両頭戦略」「分断して統治せよの戦略」である。第一次大戦の際にはロシア帝国は共産革命で崩壊し、広大な共産国家であるソ連邦が誕生した。英米その他従来の世界を自由主義陣営とし、共産主義陣営と対峙する世界状況が出現した。これも「彼ら」の大規模なる「両頭戦略」の大展開だった。新生の共産ロシアは世界の共産化を拡大する戦闘本部としての役割を持ち、世界を攪乱し続けたことは記憶に新しい。「冷戦時代」に両陣営の軍拡で大儲けしたのは「彼ら」であった。ナショナリストとグローバリストの対立を背後で煽るのも多くは「彼ら」であろう。
 「陰の権力」などを言い出すと、必ず猛反発する人々が多くいる。お前は「陰謀論者」かと、呆れ返った顔をするのが紳士・淑女の流儀であると心得る人々が多い。常識人を自負するその様な人々に発問する。貴方は、この世の中の様々な出来事を目に見えるモノだけしか知ることが出来ないと信じているのですかと。この世の実態は怪しく賤しい陰謀で動かされている。正体を晦まし、諜報機関や情報機関等を縦横に操縦して、善悪や正邪を転倒するなどの陰謀を活用し権力と富とを強化・増殖している勢力は間違いなく存在する。隠れ蓑を着て陰険に世の中を動かす者たちの正体を暴くことは陰謀ではなく、陰謀者の解明であり暴露である。