憲法論議の課題

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顧問・駒澤大学名誉教授 西 修

1.平成時代の憲法論議
 平成時代の憲法論議は何だったのか。メリット・デメリットを1つずつ指摘したいと思います。
 メリットは、衆参両院に設置された憲法調査会が2000(平成12)年1月に始動し、5年後に報告書が公刊されたことによって、憲法改正を論じることのタブー視から解放されたということです。
 私の経験を申し上げますと、私は防衛大学校の専任講師と助教授を経て、1974(昭和49)年に駒澤大学法学部法律学科に異動しました。このとき、同じく防衛大学校から駒澤大学法学部政治学科に宇都宮静雄先生が着任され、同学科には元内閣法制局長官の林修三先生が憲法を講じておられました。いずれも自衛隊は合憲であり、憲法改正にも前向きの姿勢をとっていました。そんなことから、校内に「駒澤大学の3右翼憲法教授」というビラが撒かれたことがあります。当時は憲法改正=右翼という雰囲気だったのですね。憲法調査会で5年間にわたり議論されたことが、そのような雰囲気を変えたことは事実です。これがメリットと言えます。
 一方で、デメリットというか、まったく進展していないのが、具体的な中身の検討と改正項目の集約です。私は衆議院憲法調査会で外部からの最初の参考人として、2000(平成12)年2月24日に意見を述べました。また03年5月7日には参議院憲法調査会で発言しました。その後、07年8月からは憲法審査会で審議されてきました。憲法審査会は、憲法改正を発議するための原案を審査する機関です。私は、憲法審査会での建設的な議論を期待したのですが、大いに裏切られました。
 その要因はいくつかありますが、特に最近言えることは、立憲民主党、共産党などの野党が、「憲法審査会での議論は政局にしない」という与野党の合意を破って、完全に「政局」にしていることです。このところ実質審議が全く行われていません。特に安倍晋三総理(自民党総裁)が、自衛隊明記のための憲法改正を打ち出してから、立憲民主党などの野党は憲法審査会を「政局」の駆け引き材料にしている感じがします。
 憲法改正は、国民が主権を行使できる最大の機会です。その機会の実現を妨げている諸政党、政治団体は、「反国民主権、非立憲的、反民主主義」集団であると断言せざるを得ません。私たちは、このような事態を放置すべきではなく、憲法審査会の進展と国会での発議に向けた動きを促すべく、声を上げていかなければならないと思います。