北朝鮮、中国、米国とどう向き合うか

.

JFSS顧問・元アメリカ合衆国駐箚特命全権大使 藤崎一郎

はじめに
 ご紹介いただきました藤崎でございます。先程の西先生のご本(『証言でつづる日本国憲法の成立経緯』(海竜社))の中に、私の父、藤崎萬里(まさと)のことが出て参ります。鹿児島県出身の外交官で、終戦連絡中央事務局政治課で連絡官をやりました。私はその息子で似たような道を辿ったのですが、同じ役所におりましても父はその後ずっと法律関係をやりまして、外務省では頭脳派と呼ばれておりました。私は体力派と言われておりましたので、あまり緻密なお話ではなく、どちらかと言いますと単純なお話を致しますので、どうぞ宜しくお願い致します。

1、奴雁(どがん)の視点から―米国・中国・北朝鮮
 慶應義塾大学を創った福沢諭吉の言葉に「奴雁」という言葉がございます。これは、前川春雄元日銀総裁の好きな言葉で、前川レポートにも「奴雁にならなければならない」と書かれております。
 「奴雁」というのは何かと申しますと、雁の群れがみな寝ている時に一羽だけ首を上げてキョロキョロと回りを見回しているという意味だそうで、態勢がある程度できていても違う見方をしようということでございます。私が今日お話しようと思いますのはそのことでございます。
 アメリカ、中国、北朝鮮を見ておりまして、いつも違和感を持つのは、皆さんが同じことを言うことでございます。アメリカは2016年にトランプ大統領が誕生致しました。この時の解説は、アメリカは90年代の終わりから格差が進んだと。特に取り残されたのが、ペンシルバニアとかウィスコンシンとかミシガンというラストベルト(錆びついた工業地帯)にいるプアホワイトと呼ばれる人たちです。そこにトランプは焦点を当てたと言い、これは構造的にトランプが出てきたのであって決して偶然ではないというのが一般的見方でございます。が、私は「オイオイ」と言いたくなります。そんなに構造的だと理論的に言えるならば、どうして3年前の大統領選の前に言わなかったのか。選挙のあと極めて明快に説明する。これが何の役に立つのだろうと、正直に言って思います。
 実際問題として見ますと、先程言いましたラストベルトの中心であるペンシルバニア、ウィスコンシン、ミシガン、この3つの州でトランプさんが取った票が665万票、クリントンさんが657万票、8万票弱の差でございました。その結果、その3州の選挙人46人全員をトランプが持って行き、トランプさんが大統領になりました。逆にこれをクリントンさんが持って行けばクリントンさんの勝利でございました。