天安門事件の意味

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顧問・麗澤大学特別教授 古森義久

米国での「天安門事件」30周年追悼行事
 2019年6月4日、天安門事件の30周年を追悼する日、アメリカの首都ワシントンでは官民の両方で多様な行事が催された。いずれもあの事件で命を奪われた多数の中国人男女の霊を悼み、その悲劇を起こした中国共産党政権の残虐性を糾弾する趣旨だった。
 現在のアメリカが30年前のあの大事件をいまの課題として捉え、いまの中国への政策の指針ともするという基本姿勢は、この日に開かれた「中国に関する議会・政府委員会」主体の大公聴会にも象徴されていた。この委員会はアメリカの立法府である議会と行政府である政府とが合同で中国のいまの人権状況を恒常的に調査する機関である。同委員会が下院外交委員会、同じく議会で人権問題を専門に扱う「トム・ラントス人権委員会」(故ラントス氏は下院で長年、人権問題を専門に活動した著名な議員だった)、そして行政府のホワイトハウスや国務省の代表をも含めての合同で「30年目の天安門事件・中国の弾圧の深化を点検する」と題する公聴会を開いたのである。この公聴会の主役は天安門事件で当時、民主化運動の指導者として活動し、その後の弾圧を逃れて、海外に避難したウーアルカイシ氏や周鋒鎖氏だった。彼らが証人として登場し、当時の天安門広場での弾圧から中国当局によるその後の長く、むごい民主化運動抑圧の実態をなまなましく語ったのである。
 この公聴会の開催の趣旨は以下のように公表されていた。
 「1989年、中国のあらゆる階層の市民たちが天安門広場に集まり、平和的な集会によって政府に対して民主化の促進や腐敗の追放を求めたが、暴力的な弾圧にあった。中国政府はその後、事件の起きたことを否定し、言論を抑圧した。この公聴会は当時の弾圧、その後の抑圧を再点検して、習近平政権下のいまの中国に情報の開示を求め、あわせて現在のアメリカの対中政策の指針とする」
 このように天安門事件はドナルド・トランプ大統領下のいまのアメリカでも強烈な今日性を発揮しているのである。この事件の教訓がいまのアメリカの中国への政策になお影響しているということなのだ。
 現にトランプ政権の国務省報道官は政府の公式な見解としてこの30周年の直前の5月30日の記者会見で以下のように言明していた。
 「天安門事件では中国当局による徹底した虐殺が実行されたことをわれわれは忘れてはならない。事件の30周年を前にして中国共産党が断行したおぞましい組織的な迫害行為で拘束された人々はただちに釈放されるべきだ」